菅野芳秀のブログ

▼790字の原稿

菅野農園は山形県の南部にそびえる朝日連峰の麓、雪深い里にある。
くず米など水田の副産物をニワトリたちに。ニワトリたちの鶏フンを水田に。水田4hと自然養鶏1,000羽とでつくる小さな循環型農園だ。水田は殺虫剤、殺菌剤、化学肥料を排し、レインボープラン堆肥と発酵鶏フンによって栽培する。ニワトリたちも外に放し、なるべく自然に近い形で健康な玉子を得ようとしてきた。「土・いのち・循環のもとに」。これが我が農園のうたい文句だ。中心的な働き手は息子(28歳)。すでに結婚し妻と2人の子どもがいる。

 3・11で一変した。少しばかりの蓄えを郵便貯金にまとめ、息子たち家族がいつでも避難できるよう準備をしながら、落ち着かない日々を送っていた。山形県の汚染状況が分かるにしたがって緊急避難の必要性はなくなったが、息子は「自分の子どもに与えられないものを消費者に食べてもらうわけにはいかない。検査機関に調べてもらい納得のいかない数値が出たら農業をやめる。」と気を緩めてはいなかった。もし・・・その時は我が家が終わるときだ。

 茨城大学の「応用粒子線科学」高妻孝光教授の研究室が検査に応じてくれた。米と玉子。検査結果は「検出せず!!」。両方からわずか1ベクレル/1kgも出なかった。一家離散せずにすんだ。ホッとはしたが喜びは全く湧いてこなかった。

 福島では手塩にかけた農地を捨てて逃げ惑う農家がいる。家族がある。これまで「顔と顔の見える関係」と盛んにいっていた消費者の多くは問題にならないほどの低レベルでも一緒に考えようとはせず、一方的に関係を断ち切っていったという。長年培ってきたと思われていたものが簡単に壊れていった。そんな中、12月24日、リンゴ農家の仲間が、自分の育ててきたリンゴ畑で自ら命を絶ってしまった。

 問題は農家の側にはない。福島の側にはない。

 一人ひとりの生き方、覚悟を問いつつ、問われつつ、「福島」は続く。




2012.01.10:kakinotane
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