菅野芳秀のブログ
▼俺の田んぼを作ってくれないか?
朝、晩は幾分涼しくなってきたとはいえまだまだ真夏の暑さが続いている。
昨日の昼、温度計を見たら35度あった。
田んぼでの仕事はあるのだが外にでて働こうという気になれない。
お天道様が西に傾き、多少涼しくなった頃を見計らって田んぼに行ったら、ちょうど栄さんも軽トラックでやってきたところだった。栄さんは82歳。現役の農民だ。(2008,10「80歳の現役」参照)
しばらく世間話をした後、栄さんはこう切り出した。
「来年からオレの残りの田んぼを作ってくれないか?」
栄さんからは昨年、40aほどを託されていた。
「孫が一緒にやるって喜んでいたのに、どうして?」
栄さんには20歳代の工場勤めをしている孫がいる。
「田植えを手伝ってくれたけどその後の管理は俺だけだった。遊びには行くが田んぼには来なかった。もうあきらめたよ。」
動力散布機を背中に背負い、杖をつきながら肥料を撒いていた。背負っているものの総量は20kgを超えるだろう。田んぼの畦なのだから当然のことながら足元が不安定だ。左手に杖、右手に散布機の筒をもって畦を進んでいく。
「オレの歳で転んでしまったならそれっきりだ。だから気を張っているんけれど、もう無理だよ。」
それでも栄さんは自家消費用の田んぼは何とか自分で耕すという。
「田んぼには小さい頃からのオレの思い出がたくさん詰まっている。離れたくないよ。お前にここの田んぼ45aをお願いできればオレは10a。最後までできるから・・・頼むよ。」
実は1ヶ月ほど前、隣村の米作り専業農家である豊さんからも30aほど買ってくれないかとの相談があった。100万円だという。ちょっと前までは10a100万円はした田んぼだ。今はその1/3の価格になっている。それでも買い求めたいという農家はなかなかいない。農協に売るお米の販売価格よりも生産費のほうが上回っているためだ。これが13年も続いている。
「無理だよ。1000羽の自然養鶏との複合経営。田んぼがケミカル依存なら何とかできるだろうが、我が家は違うから。」
若い農業後継者がいる我が家にこのような話が集まりやすくなっているのだろう。でも,隣村の田んぼまでは手が回らない。断らざるを得なかった。
すでに村の農家の平均年齢は70歳近くなっている。こんな話はこれからもどんどん生まれてくるだろう。我が家にも限度がある。それでも同じ集落の栄さんの話は引き受けざるを得なかった。
写真は栄さんの田んぼ。畦草はもう刈れない。除草剤の世話になっている。
2010.08.29:kakinotane
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