菅野芳秀のブログ

▼村の春


種籾の消毒が終わった。
モミを60度のお湯に5〜7分ほどつけたあと、今は水の中に浸している。
いよいよだ。

 春ははじまり。

 今年から田んぼが5反ほど増える。
その田んぼは今まで82歳の栄さんが近所の人から借りていたものだ。自分のものを含めて1・3hほどの水田を耕していたが、いよいよできなくなった。それがこちらに回ってきた。
 栄さんにとって午後の3時過ぎは晩酌の時間で、夕方、話があるからと言うので行ってみたら、やっぱりいっぱいやっていた。歳に似合わずウイスキー党。水割りを飲みながら、あずけたい田んぼの説明をしてくれた。
「自分の田んぼは作れるのかって?当たり前だよ。まだまだ大丈夫だ。それに孫がやってみたいと言っているしよ。」
 孫は20歳で工場に勤めているが、あまり仕事がなく、週に3〜4日も行けばいいので田んぼをやってみたいのだという。
「機械はまだ動くしよ。孫がやりたいというんじゃ教えなくちゃな。」
栄さんは張り切っている。まだまだ現役だ。

 先日、70歳になる豊さんから「俺の田んぼを3反ほど買ってくれないか。」と電話があった。ちょっと前なら一反で120万はした田んぼ。去年豊さんはその田んぼ3反を120万円で買ったばかりだ。それを今年、90万円で手放したいと言う。何があったのだろう。「いや、ちょっとな・・・・。」と豊さんは口を濁して語らなかったが、よくよく困ってのことだろう。何とかできないかと息子と相談したが、断らざるを得なかった。我が家にも余裕はない。

 隣の建ちゃんは74歳。ひざが痛いと足を引きずりながら歩いている。奥さんは建ちゃん以上に足が悪い。彼は4hの田んぼをほとんど一人でやっている。もう、苗箱に土入れ作業をやっていた。
「早いなぁ、建ちゃん。」
「うん、にわかなことはできないからよ。少しずつやっていかないとな。」
作業の手を休めて笑顔で応えてくれた。建ちゃんには笑い顔が似合う。

 専業農家の道さんのところに行ったら、一人で庭木の雪囲いをはずしていた。息子は生産組合の研修で泊まりだという。息子といっても46歳。まじめに働く好男子なのだが、まだ独身だ。
「なかなか来てくれる人がいなくてな。誰かいいひといないかな?」
73歳の道さんにとって、息子の行く末が心配だ。

 栄さんから引きついだ田んぼの持ち主と小作料について話し合ってきた。
「何ぼでもいいんだ。お互い様だから・・。」と、安い米値段にいたく同情され、励まされて帰ってきた。

 村の春。
さまざまな春。
いろんな思いを持ちながら、田んぼの季節が始まっていく。



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