菅野芳秀のブログ

▼ニワトリと納豆

 子ども達が学校給食で残したものを、ニワトリ達はとても楽しみにしている。いつもの定食であるトウモロコシ、くず米、米ぬか、カキガラ・・・などと比べれば、与えられたときの喜びように格段の違いがある。お汁の中に入っていた具やキンピラごぼうなどへの反応は少ないけれど、好物のスパゲッティの時には鶏舎の中は大騒ぎだ。

 そのご馳走が、まったく途絶えてしまうことが年に何回かある。春休み、夏休みのときだ。もちろん、草や野菜くずはふんだんに与えてはいるが、それはいつものことで、食の楽しみの代用とはならない。

「もう一種類、肝心なものを忘れてはないかえ?」
「なにやってんだよ。早く持ってきてくれよ。」
こんなことを言いたいのだろうな。目が訴えている。

まてまて、昔から言うように、若い時の不足は必要なことだ。それがやがて人生の糧になると言うではないか・・なんてニワトリに言ってもしょうがないか。

 食べ物の不足に関してはオレにも山ほどの体験がある。それが人生にプラスに作用しているかどうかはわからないけど。今回はその中のひとつ、納豆話だ。

「菅野をみならえ。彼は大変な窮乏生活に耐えている。」一緒に仕事をしていた同僚は後輩たちにこう言った。職場の小さな炊事場でお湯が沸いている。そばにはオレとうどんの束と納豆が一つ。

二十代のころ、オレは小さな労働組合の専従のような仕事をしていた。給料は安く、正義感と情熱だけで暮らしているような毎日。いつもお金がない。近くの食堂には「がんばる丼」だったか、「まけない丼」だったか、正確な名前は忘れたけれど、切なくなるような名前のメニューがあった。それはご飯の上にかつお節とキャベツを一緒に炒めたものがのっかっているだけの安さだけがとりえのドンブリ。それがオレの定食だった。うまかったけどね。

そして更に腹が減ると、うどんと納豆の食事となる。ドンブリの中に納豆をあけ、醤油と少しの水、それにネギとかつを節を入れてかき混ぜる。そこに茹でた鍋から直にうどんをすくい、納豆をからませてズルズルといく。コツは納豆を多めにいれること。それにうどんをすくう際、茹でつゆをできるだけ丼に入れないことかな。これがうまいんだよね。お金もさしてかからず満腹になることができるし、言うことなしだ。これは「ひきずりうどん」といって、冬の山形県では普通に食べられているもの。オレの大好物だった。これを好きで食っているわけで、少なくとも同情されたり、ほめられたりするようなものではない。

それを知らない同僚がオレを見習えという。よっぽどひどい食事にみえたのだろう。違うんですよ。はっきりとそういえばよかったのだけど、でも、せっかくの同僚の顔をつぶしたくはなかったし、オレもいい子になってみたい年頃でもあってね、ただだまってうどんを茹でていたよ。

 やがて故郷から米を送ってもらうようになると、納豆と他の食材との取り合わせを楽しむようになった。今もそうだけど、当時も納豆は安かったし、何よりも大好きだったからね。納豆とシーチキン、あるいはサバの缶詰、納豆とえのき茸のびんづめ、納豆と豆腐、納豆とマヨネーズ、納豆とそーめん・・・。

たくさん試してみた。これらの多くは想像以上のおいしさだった。いつしかオレは納豆の食べ方、その探求力において・・もしかしたら・・日本一かもしれないと思うようになっていた。その食べた量もハンパじゃない。全国十指に入るだろうと、これまた本気で思ったほどだ。

与えられた環境を越えようとすることももちろん大事だが、その環境のなかでの楽しみ方を開発することもおもしろい。やっぱり若いときの苦労は・・というべきか、貧乏だったおかげで、納豆にかけては日本一かも、という妙な自信を持つにいたった。この自信が、それ以降のオレの人生をどれほど支えてくれたことか・・・。いや、ホント。

ニワトリ達の感じている(かもしれない)「不足感」が、その後の彼らの成長にどのような影響を与えるのかは分からない。だけど学校の始まりをどんな向上心あふれる子ども達よりも、大きな期待感をもって待っているのは我が家のニワトリ達だといっても間違いではあるまい。

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2009.03.28:kakinotane
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