菅野芳秀のブログ
▼地域のタスキ渡し
大変長らく留守にしていました。ようやく外の仕事はひと段落、まだ年賀状は書いていませんがそれは例年のことで、1月になってから書けばいいや
。やれやれです。
家主が不在の間、山さくらさんや種子原人さんにルスを守っていただきました。ありがとうございました。
さて、書きたいことがたくさんたまっているのですが、肝心の「地域のタスキ渡し」について、まだ書いていないことに気づきました。一度正面から書いておく必要がありますよ、これは。なぜならばこの「地域のタスキ渡し」こそ、私の原点だからなんですよ・・・なんてね。気負ってみても今はそんな時間はない。だから・・・、以前、朝日新聞の山形版に同じ題名で書いたものがあるんですね。もう少し若い頃のものなんです。同じことなのでそれを掲載させてください。ちょっと硬い文章ですけどがまんしてくださいな。
長井市ではレインボープランという、生ゴミと農産物が地域の中で循環する事業が行われている。
私はこの事業に参加して15年(当時)になるけれど、それは、農作業の合間をぬって飛び回るとても忙しい日々だった。そんな私を支えてくれたものは「地域のタスキ渡し」という世界だ。耳慣れない言葉だと思う。何しろ私の造語なのだから。
私にも後継者として期待されながら農業を嫌い、田舎から逃げ出したいと一途に考えた青年期がある。幾年かの苦悩の末の26歳の春。逃げたいと思う地域を、逃げなくてもいい地域に。そこで暮らすことが人々の安らぎとなる地域に変えていく。その文脈で生きて行くことが、これから始まる私の人生だと考えるに至り、農民となった。その転機を与えてくれたのは沖縄での体験だった。
76年、25歳の私は沖縄にいた。当時、国定公園に指定されているきれいな海を埋め立て、石油基地をつくろうとする国の計画があり、予定地周辺では住民の反対運動が起きていた。私がサトウキビ刈りを手伝っていた村はそのすぐそばだった。小さな漁業と小さな農業しかない村。
村からは多くの人が安定した生活めざして「本土」へ、あるいは外国へと出て行っていた。「開発に頼らずに、村で生きて行くのは厳しい。だけど・・」と、村の青年達は語った。「海や畑はこれから生れて来る子孫にとっても宝だ。苦しいからといて石油で汚すわけにはいかない。」
このように子孫を思いながら反対する。これはほとんどの村人の気持ちだった。その上で「村で暮らすと決めた人みんなで、逃げ出さなくてもいい村をつくって行きたい。俺たちの世代では実現しないだろうが、このような生き方をつないでいけば、何世代かあとには、きっといい村ができるはずだ。それが俺達の役割だ。」
この話を聞きながら、わが身を振り返り、私は大きなショックを受けていた。彼らは私が育った環境よりももっともっと厳しい現実の中にいながら、逃げずにそれを受け止め、自力で改善し、地域を未来に、子孫へとつなごうとしている。
この人達にくらべ、私の生き方の何という軽さなのだろう。この思いにつきあたったとき、涙が止めどもなく流れた。泥にまみれながら田畑で働く両親や村の人達の姿が浮かんだ。
それから数ヵ月後、私は山形県の一人の百姓となった。
村には以前と同じ風景が広がっていた。しかし、田畑で働くようになって始めて気がついた。開墾された耕土や、植林された林など、地域の中のなにげない風景の一つひとつのものが、「逃げなくてもいい村」に変えようとした先人の努力、未来への願いそのものだったということに。それらの努力と願いの中で私は守られ、生かされていたのだ。
風景はあたたかな体温をともなって優しくせまったくるのを感じた。ようやく「地域」がわかった。そして私は「地域」が大好きになり、同時に肩にかかっている「タスキ」を自覚できるようになった。
その後の、減反反対や農薬の空中散布反対運動、そしてレインボープラン・・・。
私をこのように動かすものは、地域の風土の中に流れる先人の体温と、私の身体にしっかりとかかっている「タスキ」への自覚である。
・・・ということなんですが、少し、肩に力が入いりすぎていますね。若いですねぇ。カッコつけてますねぇ。
表現はゴツゴツしてるけど、趣旨はお分かりいただけるかと思います。百姓仲間の友人がいいます。「菅野は農業をやりたくて農民になったのではなく、地域を変えたくて農民になったんだよな。」って。きっかけはその通りでしたね。これが私のベースです。
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2008.12.29:kakinotane
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