菅野芳秀のブログ
▼80歳の現役
栄作さんは現役の米作り農民だ。120aほどを耕作している。いつも早朝から田んぼや畑に出ている働き者で、仕事の終りはきまって午後の3時。あとはウイスキーで一杯始めるのが毎日の楽しみとなっている。
その栄作さん、70代のはじめのころから「80歳までは現役だべ」と、口癖のようにいっていた。そしてそのとおり、めでたく現役のまま80歳となった。
今年は誰よりも早く稲刈りを始めている。冷やかしにいった私に、栄作さんはコンバインのエンジンを止めて話しかけてきた。
「来年から俺の田んぼ、作ってくんないか。」
息子夫婦は勤めていて農業はやっていない。水田は彼一人の仕事となっていた。以前から、引退の時が来たら田んぼを頼むと言われていた。だけど、栄作さんの姿が見えない田んぼはどこか寂しい。
「来年もできるところまでやってみたら。途中で無理だと思えたら、オレが引き継いでやるからよ。」
それでいいなら・・・実はやってみたい気もまだあるんだ・・と、酒焼けした頬をゆるめ、ほっとした表情でタバコに火をつけた。来年も大丈夫だ。まだまだいける。なんせ、この世代は本当に筋金入りなのだから。
我が村は山形県の中でも屈指の穀倉地帯、置賜盆地の中にある。村の農家の平均年齢は67歳。80代の農家は他にもいるし、70代は中心世代だ。
昨年産米のJAへの売り渡し価格は60kgあたりおよそ12,000円。20年前の半分の価格。農水省東北農政局の発表した生産原価は15,052円というのだから、それよりも3,000円も安い。これでは作らないほうがむしろ生活費の節約になる。実際、栄作さんの息子は「俺たちの給料をつぎ込んで、オヤジは米つくりをやっている。」とぼやいていたっけ。ある新聞に稲作農家の時給が179円にしかならないと書いてあった。法で定めた最低賃金の1/4にしかならないという。ここまでくれば水田規模の大小ではないね。この国では米作りそのものが不可能だということでしょう。
「米作りの何がおもしろいかって?田んぼに出ているのが好きなんだよ。眺めているのがいいんだ。銭金じゃないんだ。小さい頃から親しんきた田んぼだべぇ。ここで育ったのだもの、ここで終りたいよ。」
これはきっと栄作さんだけの気持ちではあるまい。平均年齢67歳。村の農家の気持ちもそこにある。そして年寄りたちのこんな気持ちが日本の米作りをぎりぎりのところで支えている。でも、それももうじき終りだろう。
この現実を、たぶん知りながら、更に安い米価を農民にせまり、減反を強いてきたこの国の指導者と役人たち。そんな中での汚染米の「米ころがし」。情けない。日本が壊れていく様を目の当たりにしている思いだ。
まだ3時には早かったが、仕事を切り上げた栄作さんの家に私も転がり込んで、ウイスキーのふたをあけた。
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