今月も、「まちネタ」(街で見つけたコラムに潜むコミュニケーションのネタ)をお楽しみください。
◎しかして希望せよ
「待て、しかして希望せよ」とは、アレクサンドル・デュマの名作『モンテ・クリスト伯』の最後に出てくる有名な言葉です。
『モンテ・クリスト伯』といえば、日本では『巌窟王』として親しまれてきた作品です。
主人公が友の裏切りで、14年間も孤島の監獄に幽閉(ゆうへい)された話です。
主人公は、牢中で出会った老囚人の神父から、様々な学問を学びます。
ある時、脱獄の機会を得、神父の隠し財産を受け継いで、主人公を追い込んだ人々へ復讐をはかっていくというあらすじです。
なかでも、過酷な投獄生活が、むしろ人生のターニングポイントとなるプロセスは、読む者に大きな示唆と勇気を与えてくれます。
どのような状況に置かれても、自分が希望を捨てない限り、味方が現われ、道は開かれるといえるでしょう。
「運命は自ら招き、境遇は自ら造る」のです。
人生に豊かな実りをもたらすのは、置かれた環境ではなく、その人自身の意思と実行です。
まさしく「待て、しかして希望せよ」なのです。
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<コメント>
巌窟王! どんな内容だったかなぁ、と、子供向けの本を買ってきました。この本での訳は「待つのだ。希望を持って」となっていました。
主人公は次々と復讐を実行していくのですが、途中でそのむなしさに気づきます。そしてそれを境に愛に満ちた新しい人生が開けていったのでした。
復讐劇ってイマイチだなぁ、と読む前に思っていただけに、私にとってはこの作者の意図に感動しました。
それはさておき、西郷ドンも島流しされたおかげで、中国の古典をじっくり学ぶことができ、時機の到来に備えることができたわけです。
置かれた状況が良いか悪いかは、あとあとふり返った時にわかることで、渦中では「すべて良し」と希望を持って善処するしかないのでしょうね。
◎素直の二面
「素直」 という言葉には、「飾り気なくありのままなこと」「穏やかで人に逆らわないこと」などの意味が辞書には書かれています。
どんなことでも「はい」と受け入れることが素直のイメージだと思う人もいるでしょう。
Mさんは、上司から得意先に電話をしておくように指示を受けました。
「はい」と返事をしたものの《 まずはこの仕事を片づけてから 》と、自分の仕事を優先しているうちに、電話をかけ忘れてしまったのです。
指示に対して、素直に返事をしたものの、すぐに行動に移さなかったために、失敗をしてしまいました。
「はい」の返事は、相手を受け入れる最高の言葉ですが、即、行動に移すという積極的な働きかけがなければ、本物の素直さとはいえません。
つまり、受け入れる素直さと、働きかける素直さが一体となることが大切なのです。
清濁(せいだく)併せ呑む心の広さと、すぐに行動に移す即行力は、その人の魅力につながります。
本物の素直さを身につけたいものです。
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<コメント>
「静の素直」に対して「動の素直」もあると学んだのは10年ほど前のこと。
前者は、受け入れる素直、「ハイ=拝」の精神です。それに対して後者は、即行を旨とする積極心の発動。火のような直行精神です。それも素直なんですね。
京セラ創業者の稲盛和夫氏は、著書「生き方」の中で次のように述べています。
素直とは、右を向けといったらただ右を向く、そういう従順さのことではありません。自らの至らなさを認め、そこから惜しまず努力する謙虚な姿勢のことです。
松下幸之助氏は、ものごとをまっすぐありのままに見る心を素直と呼んでいらっしゃいました。