今月も、「まちネタ」(街で見つけたコラムに潜むコミュニケーションのネタ)をお楽しみください。
◎ 舌で話すな心で話せ
「無舌居士 (むぜつこじ) 」とは、江戸落語中興の祖 (ちゅうこうのそ) といわれ、明治三十三年、六十一歳でこの世を去った三遊亭円朝の戒名 (かいみょう) です。
話芸に舌は欠かせないのに「無舌」とは、なかなか理解しにくいことです。これは、円朝の禅の師匠であり、幕末の江戸城無血開城の立役者として名を馳せた、山岡鉄舟の教えに由来するそうです。
円朝は生前、鉄舟の「舌で話すな、心で話せ」という教えに従い、その人物の心になることを大切にしていました。
上辺のテクニックに走り、スラスラ話す弟子には、「心なしで話すから少しも情が移らない」と叱ったそうです。
とかく私たちは、自分の得意とすることに自惚 (うぬぼ)れてしまうものです。それが、思いもよらない失敗を引き起こしたり、成長の機会を妨げたりします。
仕事においては、表面に表われ周囲から脚光 (きゃっこう)を浴びる部分だけでなく、その深い意義を理解しましょう。
職場で働く仲間、さらにその先のお客様の「心」を意識した働きを日々目指したいものです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
<コメント>
よくある金言名言集の中には、耳触りはとてもいいのですが、どのように実生活に当てはめていいのかわかりづらいものもあります。
若い頃作っていた私個人のHPを先日見ていたら、そんな言葉を引っ張ってきては得意げに紹介していました。
ただ引っ張ってきて載せるのでは思いがこもりませんね。その反省から、ハモコミ通信では厳選吟味したものを掲載させていただいております(笑)。
◎ 惻隠の情
スポーツの国際大会などにおいて、勝ったチームが負けたチームを侮辱 (ぶじょく) するような態度をとり、問題になることがあります。 スポーツマンシップを汚 (けが) すような行動は、見る側のファンの立場としても残念なことでしょう。
評論家の屋山太郎氏は、終戦直後の大学生時代、剣道部に所属していました。
団体戦の先鋒 (せんぽう) で勝利した際、席に戻って面を外し、嬉しさで思わずにっこり笑ってしまいました。
すると、監督から思いっきり竹刀で背中を叩かれ、「笑うな! 負けた相手の心情を思いやれ」と告げられたといいます。
これは武士道精神における「惻隠の情」だとして、屋山氏は「あらゆる勝負事、立ち居ふるまいに通じる」と述べています。「惻」も「隠」も、心を痛めるという意味で、人が困っているのを見て、わがことのように心を痛める様をいいます。
競争社会では、必ず勝ち負けが存在します。勝てば有頂天になりがちですが、喜び過ぎず、敗者への思いやりを忘れず、さらなる精進をしたいものです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
<コメント>
ガッツポーズで「一本」が取り消された、というニュースは聞いたことがありますが、席に戻ってからの自然な感情までコントロールするというのは、まさに剣道の「道」たるゆえんですね。
20年ほど前にセパタクロー世界大会決勝戦で観たタイ対マレーシアの伝統の一戦。勝者は国民の英雄だそうですが、勝ったというのに相手に配慮していたことに驚き、記憶に残っています。