北アルプスを背景にした安曇野ちひろ美術館のガイドブックの写真。
美術館の展示内容に興味があったわけではなく、岩崎ちひろのファンでもなく、ただ景色を楽しめれば、という単純な動機でそこを訪れました。
曇り空だったため、お目当ての北アルプスの山々が見れなかったのは残念だったのですが、実は美術館そのものに魅了されてしまいました。
岩崎ちひろさんについての予備知識はゼロ。
絵は、絵本を通していくつか馴染みがあり、好きか嫌いかと言われれば、どちらかといえば好きな画風だな、という程度でした。
興味深かったのは、「ちひろの絵のひみつ」と「ちひろの人生」です。
7つの技法の組み合わせで成り立っている、と解説してあり、なるほど、大成する人の技というのは、やはり3つ4つでは足りないのだな、と自分に当てはめて感じ取りました。
ちひろの人生の中でとても興味深かったのは、「苦悩とそれを乗り越えた部分」です。
哀しい時しか書かないという日記に書かれた一文。
「本当に順調ななんのこしょうもない結婚生活の外観を整えた。けれど、私は主人のため子供のため、かせぎ働きすぎ、自分の絵をだめにしてしまった。
女流美術のこんどの絵も童画会の絵も、新しい感かくもせい力もだしつくした、ひからびた、いじけた古いものだ。もうさしえさえ自信がない。どこもたのみにこなくなった。」
まさに苦悩を赤裸々に綴っています。
その苦悩をどのように乗り切ったか?
決意を綴ったものがこちら。
「およばずながら、わたしも長い生命をもった、童画家でありたいと思う。さざなみのような、画風の流行に左右されず、何年も読み続けられる絵本を、せつにかきたいと思う。
もっとも個性的であることが、もっともほんとうのものであるといわれるように、わたしは、すべて自分で考えたような絵本をつくりたいと思う。」
新しい絵本表現を求め、さっそく2つの取り組みがなされたのです。
1つは、『絵で展開する絵本』(至光社)
従来の、物語に挿絵をつける絵本とはまったく違う取り組みだといいます。代表作は、「あめのひのおするばん」。そういえば我が家にもこれはあったなぁ。
もう1つは、『若い人の絵本』(童心社)
幼い子供対象ではなく、若い人に読んでもらいたい絵本ということで、「たけくらべ」、「万葉集」などを、モノクロームの世界で表現していったのです。
苦悩を乗り越えた後には、何か信念が生まれますね。
そういう意味では、芸術家の転機とその前後作品を見比べる、という鑑賞方法がありそうだな、と思いました。
私たちの仕事は芸術家とは違いますが、何かを提案する場合、そこにその人のその人らしさというのが必ず出ます。それを芸術性と考え、精進していきたいと心に誓いました。