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▼ワンコの切れ目

雨をよけながら通勤帰りのバスを待っていると、マンションに住んでいたとき同じ階で、同じく子供を持たない夫婦だった、Kさんの奥さんに会った。
マンションの住人だったころ、我が家のワンコ事情はミニチュアダックスフンドのももこの1頭飼いだったが、Kさん家はマルチーズを2頭飼いしていて、幼犬だったももこと、一緒に遊んでもらったりしたことがあった。
久しぶりにKさんの奥さんの話をきいてみると、ところが、そのころ飼っていたマルチーズは、一昨年、昨年と相次いで死んでしまい、現在はわたしの知らない、若いマルチーズを飼っているのだという。
そういわれてみれば確かに、近ごろ近所でたまに見かけるKさんの奥さんの散歩姿は、1頭だけを連れたものだった。
しばらく、2頭のマルチーズの生前の思い出話をしていたが、続けてKさんの奥さんは、夫婦で一緒に育てて来た、ワンコの切れ目をエンの切れ目として、昨年10月、Kさんと離婚したことを話し始めた。
わたしは居ずまいを正した。
Kさんの奥さんは今年還暦をむかえる年の方だし、Kさんは奥さんより何才か上と聞いていたので、まさしく、世間でよくいう熟年離婚なわけである。
そう言われてみれば、マンションの管理組合の理事をKさんと一緒にやったとき、交わした会話のなかに、そういう危うい進展を思わせる内容はすでにあった。Kさんと奥さんは、もう何年も夕食を伴にしたことがないというのであった。Kさんは仕事で帰りが遅く、ほとんど毎日外で飲んで食べて帰るし、奥さんは一人分だけ手早くしつらえた惣菜で、ちょっとお酒を飲んで、夕飯を終えてしまうということだった。
そんなふうに、一緒の生活を過ごしている夫婦というのもあるのだな、と、わたしは自分の通念に、少し引っかかる思いを持ったことがあったのだった。
バスの中の二人掛け席でKさんの奥さんは、元夫との財産分与で、これがあっちに行ってあれはこっちに来てと、堰を切ったように話した。それはわたしが聞いても全くどうなるものでもなかった。わたしの耳から流れ込んできたものは、出口のない沼であるわたしを濁らせるばかりだった。
そしてその話がほぼ尽きると、それから、現在の生活設計について話して、わたしより3つ前のバス停で降りるまで、話は止むことがなかった。

永いあいだ夫婦で一緒に育てた、ワンコの切れ目がエンの切れ目になってしまった、という子供を持たない夫婦の離婚話を、わたしは交友関係のごく身近に、もう1組知っている。
わたしの友人には、子供を持たない夫婦が多いから、そういう例を多く聞くのかと考えたが、少子化とペットについての、次のような統計情報を考えあわせると、案外それは何処にでもよくある話なのかもしれない。
わたしも意図せずにいささか貢献している、日本の家庭の少子化の進み具合は激しく、現在、家庭内のペット数は子供数をこえたそうである。

ワンコがカスガイと呟きながら、雨の道路の足元をたしかめたしかめ、その夜は俯きながら歩いて帰った。



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2008.01.16:higetono

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