ボク ト オレ

まだ家に桃の木がある頃、隣におじいさんが住んでいた。

おじいさんのいない家庭で育ったボクはとてもそのおじいさんが好きだった。

いつもニコニコ。

いつもお菓子をくれる。

いつもボクを見る目が優しかった。



考えてみればあれがボクにとっての一番最初の別れだったように思う。

優しかったそのままの表情で静かに眠っていた。



小さかったボクはおじいさんのホッペをなでていたのを覚えている。

そして代わりにボク自身がニコニコしてた。

おじいさんはボクが泣くといつも心配そうな顔をしていたからだ。

体が弱かったボクは隣の家くらいしか行けない。

だからおじいさんはボクにとって初めての親友だった。

泣く事よりニコニコすることがボクにできる精一杯の事だった。

大人たちはそれがわかっていなかったように思う。
きっとボクがなにもわかってなくて、ただおじいさんを見てニコニコしてたのだと思ったのだろう。


それは違う。

いまでも覚えている優しい笑顔。

ボクなりに考えてした事だった。


それからボクは幾度となく友人や知り合いと永遠の別れをした。


入院していたとき、朝起きたら無くなっていた笑顔。

突然の連絡からの別れ。



そのたびにボク成長したのだろうか?

そのたびにボクは笑うことができただろうか?


ボクは悲しみを思い出に変えるために笑う。
2005.04.06:gas:[メモ/小説?]