焼酎ブームに押され、長らく売れ行きが落ち続けていたウイスキーだが、
税率が下がったため、一気に巻き返しの機運が盛り上がっていた。
輿水に、人気回復のための新しいウイスキーづくりが任された。
考えたのは、焼酎のように飲みやすく、でも新しい個性を持ったウイスキー。
しかし、試作を何度繰り返しても、なかなか納得する味には仕上がらない。
納期まであと数日になっても、ブレンドが決まらなかった。
新製品が締め切りに遅れれば大打撃となる。輿水は追い込まれた。
焦りが募る中、ふと思った。「まあ、これでいこうか」
だが、発売して間もなく輿水は愕然とした。目標の半分も売れない。
倉庫に在庫の山ができた。
そんなある日、輿水は、先輩にキツイ一言を浴びせられた。
「本当にうまいと思ったの?」
輿水は激しく後悔した。
疑問を抱きながら、それに目をつぶった自分。そんな自分が許せなかった。
その日を境に、輿水は変わった。
納得がいかなければ、トップのゴーサインが出た後でも、ブレンドを変えた。
二度と自分に嘘をつかない。その信念が、今の輿水を作り上げた。
(プロフェッショナル仕事の流儀11 File No.32より)