火起しでっぽ 〜キャリアネットワーク〜

火起しでっぽ 〜キャリアネットワーク〜
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Yリーグさんが、ある出版社のショートストーリー募集に応募したところ、見事入選しました。
テーマは「今だから伝えたいあなたに」。以下、全文を掲載します。

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あなたの人生はあなたのものよ、大切にね。  

 あなたも52歳、いい年になったわねえ。本当に月日の経つのは早いもので、半世紀生きたのですもの。一口に半世紀と言うけれど、長かった?それともあっという間だった?人生100年と考えれば半分ちょっと、まだまだ時間があるじゃない。なんとうれしいこと。心身共に健康でいられるように気をつけないとね。さて、これからどんな人生を生きようか?  
 あなたは埼玉県入間市の自然豊かな狭山茶の産地に、若い父母の長女として生まれた。まさに親子の奇跡的な出会いよね。父22歳、母19歳で、若い二人はどのように育てたらいいか毎日悩みながら必死で育ててくれたのだよね。熱が出たといっては夜も寝ないで額に手を当て冷たいタオルで冷やし、咳が出たといえば背中を一晩中さすって祈るような気持ちでおさまるのを待ち、迷いながらも知恵を出し合って気迫で乗り越えてきたのだね。おかげで今まで大病もせず、風邪も滅多にひかず医者いらずの丈夫で頑丈な身体をプレゼントしてもらった。きっと父母の深い愛情が身体の隅々までいきわたってすごいパワーをみなぎらせているのだよ。そして、自由にのびのびと見守られて育ってきたのがよかった。
 それから、若い父母は働き者だったね。たいした学歴はないけれど、子供を保育園に預けて一生
懸命働いて生活を立てていた。そんな必死で生きる後ろ姿を見て育ってきたから、小さいながらも淋しい気持ちを感じつつ働くことの大切さもわかったような気がする。
 母は生命保険会社に勤め、持ち前の明るさと物怖じしない性格が功を奏し、どんどん道を広げていった。そこにある技はお客様や職場の人、周りにいる皆とのコミュニケーションをうまくとる技、というより母の人間観があったと思う。相手がその時欲しいもの、様々な情報であったり悩みの相談、励ましの言葉、ホッとする笑顔等々を与えながら、友となって相手の身になって輪を広げていった母の素晴らしさには感服するものがあったね。そしてある時、こんな会話をした時があった。母にお金をちょくちょく借りにくる人がいて、あなたは、「また貸すの?いつもすぐ返さないのに。」と言ったら母は、「人が困っている時は助けてあげるの。いつ自分が助けてもらうかもしれないから。」という言葉が返ってきた。その時あなたはハッとしたね。「そうか、そういう気持ちが大切なのだ。」と。惜しみなく与えれば自然と自分に返ってくるものなのよね。見返りを期待しない真実の愛、ずっと心に残る温かい愛がそこにはあるのよね。  
 あなたの人生にはもう一つ、印象的な出会いがあったね。それは、「パッチ・アダムス」の映画を見て、パッチ・アダムスの全世界の人々に対する愛と思いやりの深さに言い知れぬ感動を覚えたこと。パッチは笑いが人の心や病気を癒すことに目覚め、自らも癒された経験から医師になることを決意し、患者を無視した権威主義、ビジネス化する医療ではなく愛とユーモアを治療に取り入れ、無料で患者を診察する共同体形式の病院施設ゲズンハイト・インスティチュートを設立、現在建設中だ。この世の中に、こんなにも社会のこと、人のことを考え思いやれる心の広い人がいるだろうか。
 皆自分可愛さに自分がまず優先だが、パッチはこう言っている。「ビジネスとして医療を行えば誰もが傷つく。医療を行うことで受ける報いは、実は人のために尽くすことで感じる喜びであり、自分自身を再発見する驚きである。自分を癒すためには人に尽くすことである。そして人に尽くすことで心には平温が戻るのである。」と。人間は一人では生きていけない。いろいろな周りの人たちに支えられ、お互いに与え与えられて生きている。これこそが“愛”人類愛というものだろう。パッチは人間皆“友達”、かけがえのない一人一人の大切な命だから愛と思いやりをもって生きようと呼びかける。あなたはこのパッチの精神に深く深く感動し、心の指針となって自分も少しでも社会のために何かできたらうれしいと思うようになったね。  
 そんなある時、パッチが日本に来るとの情報を得て、夢のような話でドキドキしながら娘と一緒に会いに行った時の感激は生涯忘れることがないだろう。そう、あのパッチが目の前にいるではないか。みんなに優しい目で笑いかけている。そして、パッチと参加者皆との交流会では、パッチがトレードマークの赤い鼻を付けてアヒルの帽子や派手な衣装をまとい、皆と友達になりに一人一人の元へ笑いかけながらふざけたり抱き上げたりして汗だくで交流を図ってくれた姿を見て、これこそ本当に純粋な心で分け隔てなく、初対面でありながら一人一人と真剣に向き合ってくれるパッチの真の愛に他ならないと強く感じた出来事となった。皆思わず笑わずにはいられなくなり、心から幸せな気分になるのだ。こうやって人の心を解きほぐして信頼関係を築いていくのだよね。パッ
チは、“あなたはかけがえのない大切なあなただ。だから、笑顔で精一杯生きてね。”
と全身で語りかけてくれた。  
 あなたは運良くこんな素晴らしい出会いも経て、パッチが問いかける“あなたは社会のために何かしているか?”という問いに答えられるようになりたいと模索中、宮城大学教授の久恒啓一氏の講演を聞きに行き、“キャリアとは仕事歴を中心とした学歴でない学習歴、経歴でない経験歴の総体、つまり一人一人の価値観やライフデザインを考えながら生き方を見つけていくこと”という理論に感銘し、“これだ。”と思いキャリアカウンセラーの勉強を始めたよね。その中で、自分を見つめることの大切さ、知っているようでよくわかっていない自分を見つめることができ、自己開示をすることにより分かち合える共感や連帯感など多くの新たな発見や気づきが生まれて目から鱗状態だったね。こうやって自分探しをして自分の人生を切り開いていくことを他の人にも伝えていけたらうれしいと始めたキャリアカウンセリングでは、毎回毎回気付かされたり教えられることばかりだ。話を聴かせてもらうということは、人生の貴重なドラマを聴かせてもらうなんと素晴らしい感動的なことか。一緒にそのドラマにのめり込んで、その中から何か糸口がつかめればこんなうれしいことはない。これからますます自分を磨いて魅力的な人間にならなければと思う毎日である。
 また、あなたは昨今の経済不況や社会のシステムの変化からリストラや若者の就職難、ニート問題等今や大きな社会問題となっていることに心を痛めているよね。自分を見失ってどうしたらいいのかわからない人達の声を聴いてあげよう!温かい手を差しのべてあげよう!ちょっと背中を押してあげれば自分の力で歩いていけるのだから。
 あなたは幸せ者ね。この世に生を受け、こうして貴重な出会いや出来事を経験し、素晴らしい仲間に支えられて生きているのですもの。こんな幸せなあなただから、これからの人生を自分のため、周りの人のために皆が幸せに輝けるよう大切に生きていこう。一人一人のかけがえのない命を尊び、自分らしく生き生きと生きていこうではないか。あなたに与えられた時間はこれから先まだまだあるのだから。
2006.02.15::count(1,542):[メモ/わたしの意見]
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