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▼我思う!「今日のキャリア・カウンセラーの使命と役割」(企業の場合)

【長山永寿】

以下は、キャリアネットワークの代表である長山永寿(長朗)が考える企業におけるキャリア・カウンセラーの使命と役割に対する一考察です。長文ですが、ご賞味ください。
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1・キャリア・カウンセリング及びキャリア・カウンセラーについて
 キャリア・カウンセリングが日本の企業における新しい人材育成・活用、組織活性化の方法として注目されつつある。しかし一方ではキャリア、キャリア開発、カウンセリングについての理解が不十分であるためにキャリア・カウンセリングに関してさまざまな混乱が生じている。キャリア・カウンセリングの理念と現実との間のギャップと課題は多いが社会はキャリア・カウンセラーが必要とされる方向に進んでいる。

2・キャリア・カウンセリングとキャリア・カウンセラーが注目されているのは
 1)キャリア・カウンセリングはキャリア開発プログラム(CDP)の一環として位置付けられている。CDPはキャリア開発をプログラム化したものである。
 2)従来のCDPは1970年代に導入されたが、正しく理解されず、単に会社にとって都合の良い制度と受け止められて企業主導型の一方通行のものとなってしまった。人事管理・人材開発も集団管理の側面が強く、社員一人ひとりに目を向け、一人ひとりのキャリアを個別に考えるシステムにはならず形骸化してしまった。
 3)その後バブルの崩壊やグローバル化時代の到来があり、キャリア不安の時代を迎えた。すなわち外的要因としての産業構造の変革による人員ミスマッチ、IT革命による習得技術の短期間での陳腐化、企業の経営破綻やリストラによる人員削減などである。また内的要因としては、個々人の働く意識の変化と若年者の職場適応力の低下などである。これらの課題を解決するためには集団に焦点をあてた対応でなく、個人に焦点をあてた対応が求められる。「選職社会の実現」のためには「個の自立・自律」を促し、自己実現を目指すことが肝要である。自己実現を目指すエネルギーが個人を強くし、それが組織の活力につながるというのである、その考えの基にキャリア開発が行われようとしている。特にグローバル競争時代に入って求められる人材は「新たな知恵」を生み出し、それを活かせる能力を持った人材である。そのような人材は従来のキャリア開発からは誕生してこない。今日本の企業でMBOや成果主義が成果に結びつく率が低いのはそれらと個人の成長との結びつきが弱いからともいわれている。国をあげて「自立・自律した個人」を早急に育成することが求められているのである。
 4)新たなキャリア開発の基本理念は「個人の論理と組織の論理の共生」である。個人の論理は自己実現、自己ゴールの達成である。組織の論理とは長期的な企業戦略に基づく後継者育成を含めた人事戦略・人材育成・人材開発である。共生は真の適材適所の実現の追求であるともいえる。キャリア開発の目的は個人という存在と、個人と組織の関係を見直し、個人と組織の豊かな共生を追及するところにある。制度的にはCDPを中核としそれにMBOや成果主義を連動させる。一人ひとりの成長があって、始めて組織は成長し、組織が成長することで個人もまた更に成長するという考え方である。この考え方に基づいてのキャリア開発を行うためには大きな発想の転換と制度改革が必要であり、人事管理や人材開発の基本理念の見直しも求められる。個人に焦点をあてた人事管理制度や人材開発制度の導入が前提となる。共生とは相互尊重、相互依存、相互選択という関係である。このような関係の構築が「個の自立・自律」を可能にする。「個の自立・自律」を求めるのは、個人の自己責任を問う前に個人の自己決定を尊重し個人が自己決定が出来るよう支援するためである。自己決定は深い自己理解のうえに行われるのである。
 5)キャリア・カウンセリングの必要性
  個人の職業的成功と企業の組織目標達成にあたって「個人の論理と、企業の論理の調和を図る」ということが必要である。その掛け橋の役割を担うのがキャリア・カウンセリングである。「個と組織の共生」の構築を目指して個人主導型のキャリア開発が組み立てられ、それを具体的に展開していくためのCDPが作られる。その中の一つがキャリア・カウンセリングである。キャリア・カウンセリングとは、一人ひとりが自分のキャリア形成の過程で生じてくるさまざまな発達過程に取り組む際に、キャリア・カウンセラーが側面から本人との対話を通して行う支援活動である。また自立心を強化する意味で同じCDPの一環としてCDWがあるが、キャリア・カウンセリングはCDWをはじめ他のCDPのプログラムと連動し、取り組んでいるキャリア開発について“あわせ技”としての機能を効率的に発揮する。

3・キャリ・アカウンセラーの使命
 キャリア・カウンセリングが「個人の論理と、企業の論理」の調和を図る掛け橋が役割であるとすれば、キャリア・カウンセラーはその役割を具体的に行うことが使命である。個人が自分の力を生かして楽しく仕事が出来るような活性化した組織を作ることをサポートしていく役割が重要である。さらに企業として成果主義を実践していく上で不可欠な個人のキャリア自律支援と戦略的な人事配置のサポートや及び仕事と人材とのマッチングを図ることで優秀な人材の流出を防ぐなどの役割も果たす。そのような個人と組織の共生を図っていくために、キャリア・カウンセラーは、個人が自己理解を深め、自己のキャリア開発について主体性をもって取り組んでいけるよう、面談などを通して支援していくのである。企業としての組織目標についても理解し、個人の要求と組織の要求との調整を図って個人と組織の間にWin―Winの関係をつくることである。それは真の意味での適材適所の具現化であり、それがキャリア・カウンセラーの使命であるともいえる。さらにまた一人ひとりの成長を図り組織への活力を与えることは、個人と組織間の活性化だけでなく、個人が生活している家庭や地域社会を含めた社会全体に活力を与え、「世直し」にも通ずる大きな役割ともいえる。これがこれからのキャリア・カウンセラーの大きな使命ではなかろうか。

4・キャリア・カウンセラーの役割
 キャリア・カウンセリングはカウンセリングである。とすれば面談が主体となる。面談の際に来談者との信頼関係があって初めて来談者の気づきと納得が生まれる。従ってキャリア・カウンセラーはカウンセリングに関する基本的な傾聴などのスキルやカウンセラーとしての態度を習得することが求められる。キャリア・カウンセリングにはガイダンスやコンサルテーションなども含まれるが、カウンセリングとガイダンスなどとの違いを明確に理解したうえで面談に臨む。目標を設定したうえで、来談者の求めていることが何なのか、その求めに対し自分は何をもってどれだけ応えられるかを見極めたうえで面談する。面談のねらいは、個人のキャリアに対する自己概念に気づかせ、仕事を理解させ、自分にあった仕事を選択し両者がマッチングできるよう援助することである。無条件に本人の希望通りいかなくて調整をする場面が多くなるが、こうすればいいと特定したり断定したりせず、本人の気づきと納得を目指して面談する。またカウンセラーとしてのキャアリア観、人間観を深めていくことも必要である。「職業を選ぶことは人生を選びこと」であるという言葉があるが、来談者が自分の人生をかけて面談に臨んでいるという意識で受け止め時によっては自らの人間性、人格をもかけて臨むくらいの気構えも必要である。
 企業おけるキャリア・カウンセラーの役割についてはまだ十分に確立されていない部分が多く試行錯誤的な状況の中にある。役割を大きく分けると @職業選択の指導とA職場適応への援助の2つに大別される。職業選択の指導については主にその仕事に求められるスキルの情報提供、職業につくためのコーチング、意思決定の支援などの役割が求められる。最近は同じ社内での仕事についても仕事の中身は多岐にわたり高度化してわかりずらい。社外の仕事となるとなおさらである。来談者が自分の仕事を客観的に見られるよう仕事について出来るだけ具体的に説明することが必要である。企業によっては技術畑のカウンセラーを養成して対応する試みもあるが企業内カウンセラーは仕事の内容だけでなく経営方針や社内・業界事情なども周知し、ガイダンスやコンサルレーションも交えて行うことも必要である。また今後は社外を見据えての企業内キャリア・カウンセリングもあり得る。労働市場の現状について詳しい知識をもち、外部のアウトプレースメント業界や人材紹介業者との間に人的パイプを作ることも必要とされる。組合も職業紹介的な役割を担うようになる。組合との新しい関係を構築していくことも考えたい。新しい職場適応への援助については職場不適応の問題解決と問題発生を防ぐという役割がある。産業カウンセリングと重なる部分であるが、キャリア・カウンセリングの場合、来談者のパーソナルなテーマが表面化する場合があるはずである。その時には治療的なカウンセリングが求められる。カウンセリングと称する以上必要な時には治療的な対応を行えるカウンセラーでありたい。リストラ対象者や高齢者の配転対象者と面談する場合は“根っこの深いところ”に視点をあてて対応することが必要である。企業内での早急な養成による対応の必要性もあるが、それらは職業相談員とし、キャリア・カウンセラーと称する人は最低でも初級産業カウンセラーくらいの知識と実技を習得することを義務付けるべきではなかろうか。最近の職場不適応の問題は仕事・職業がらみのケースが多く今後も仕事とパーソナリテイの両者に強い専門的カウンセラーが必要になるはずである。また活動の場も相談室での面談だけでなく、人事・労務管理者制度をよく理解したうえで人事スタッフと連携して問題の解決にあたるとか、ラインの長とも連携をとり、現場での理解を得てより良い解決が図られよう働きかけることも必要である。さらに個人の自律に向けた意識向上を図るために人材開発・研修とタイアップしキャリア設計セミナーを開催し、変化への気づきと対応を促す。そして職場マネジメントに関する相談についても、職場マネジメント支援や職場マネジャーを対象にした個別相談などを行い、“人を資産と見る”視点からのマネジメントの質の向上を図る。このようにキャリア・カウンセラーには幅広い活動が求められており、企業内では研修担当者がリーダーとなり技術出身者も交えたチームで対応すべきである。企業内で対応できない場合は外部に依頼するが外部のキャリア・カウンセラーがプロ化している割合はまだ低い。早く社会的に認知され得るプロ集団を育成し社会のニーズに応えていくべきである。
 今後キャリア・カウンセラーは「人生いかに生きるか、キャリアをいかに伸ばすか」に関わることにキャリア・カウンセラーとしての意義を見出し、その活動対象を地域社会や家庭にも広げて「世直し」にも貢献するという大きな使命感と喜びをもって活動すべきである。

by 長山永寿(長朗)

画像 ( )
2005.03.29

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