年だからでなく年がいもなく
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『少子社会日本−もうひとつの格差のゆくえ』の紹介
日本キャリアデザイン学会のマガジンに紹介されていたものの転載です(著作権の侵害?)
少子化対策の第三は男女共同参画社会に関するものです
『少子社会日本−もうひとつの格差のゆくえ』
山田昌弘著 2007.4.20 岩波新書
少子化問題がキャリアデザイン問題であることは論を待たないだろう。学校
を卒業して就職し、「適齢期」を迎えたら結婚し、男性は職業を、女性は家庭
を中心に生きて何人かの子どもを育てるというキャリアは、一時期の日本では
ごく一般的なものであり、典型的な「幸福なキャリア」として人々に広く受け
入れられてきた。もちろん、これはそれを望まない一部の人には大きな迷惑だ
ろうが、とはいえ現在でも多くの人がこれを支持していることも事実であるら
しい。
ところが、今日ではこうしたキャリアを選択しない人、選択できない人が増
えている。それが少子化問題であり、これまでに多くの議論が積み重ねられて
きた。この本はその上に、例えば「低所得、低学歴の男性ほど結婚しにくい」
といった、「できれば避けて通りたい、おおっぴらには口にしにくい」しかし
多くの人が「実はそうなんじゃないか」と感じていることを率直に指摘しなが
ら議論を展開している。もちろん、すべてが実際に明白な証拠がある指摘ばか
りではないから、単なるオカルトである可能性もあり、とりわけそれを信じた
くない人たちからはその点の批判はあるだろう。しかし、今日の社会的な雰囲
気や気分によくなじんでいるので、妙に説得力がある。
本書によれば、日本で少子化が進んだ要因は4つに整理できるという。まず
経済的要因として、第一に結婚や子育てに期待する生活水準が上昇して高止ま
りしていること、第二にその反面で、若者が稼ぎ出せると予想する収入水準が
低下していることがあげられている。次に社会的要因として、第三に結婚しな
くても男女交際を深めることが可能になったという意識変化、および第四に魅
力の格差が拡大していること、があげられている。とはいえ、期待水準の低下
や収入の大幅増加は現実には困難だし、社会的に時計の針を逆に回すこともで
きないとすれば、「夫婦共働きをして、将来の生活見通しをたてる」ことを考
える必要がある。
こうした観点から、本書が提案する少子化対策はやはり4点示されている。
第一が全若者に、希望がもてる職につけ、将来も安定収入が得られる見通しが
持てるようにすること、第二にどんな経済状況の親のもとに生まれても一定水
準の教育が受けられる保証をすること、第三に格差社会に対応した男女共同参
画(低スキルの女性が出産後も無理なく働いて家計に貢献できる安定した職の
保障)を実施すること、第四に若者にコミュニケーション能力をつける機会を
確保すること、である。
いずれももっともな提案であり、特に第三の提案はこれまでのわが国ではか
なり思い切ったもので、高く評価できるように思う。人々が結婚や子ども、家
庭に一定以上の価値を見出しているのであれば、効果も見込めるだろう。とは
いえ、これらが本当に現実的かといえば心配もないではない。第一の提案には
現実には相当程度の経済成長を必要とするだろうし、第二の提案にも大規模な
財源の裏付けがいる。著者が旧日本軍の例をひいて「戦力の逐次投入」の愚を
説くが、既存財源の集中投下だけでは限界がありそうだ。著者の意図がそこに
あるのかどうかはわからないが、結局のところはまずはなにより経済成長が必
要であり、そのための政策にこそ集中すべきだというのが、この本の議論から
導き出される結論になるような気がする。
(編集委員 荻野勝彦)
2007.05.29:
choro
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