年だからでなく年がいもなく

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山田洋次監督の久々ぶりの現代劇
いつもの如く前評判ほどの映画ではないだろうと思って観たら期待どおりの映画であった

大阪に住む酒と金と女にだらしないダメ弟と、東京に住むしっかりものの姉との姉弟物語
それに姉の娘の姪や姉の義母などがからんでの家族の愛と絆が描かれる

だらしないといっても寅さん的なにくめないだらしなさである
だらしのないことが次々と画面に出てきて笑いとどうしようも無い思いと、怒りのようなものを感じてしまう

でも新聞種になるようなだらしなさでないことが救いになる
しっかりものの姉の気持ちについてける

そんなダメ弟を1度はしっかりものの姉が見放すが、大阪で行き倒れになった弟の最後を姉と姪とでしっかりと看取ってやるということで終わる

観ているうちに「そういえば自分の身内にも似たようなダメ身内がいたな〜」と思い出す
昔はそんな身内を親族でかばいあいながら世間の迷惑にならないように生きていたように思う

今はどうであろうか
こんな牧歌的なだらしなさでなく、引きこもりや自殺や他人を傷つけるというようなだめさに変わってきているから、家族の愛では追いつかなくなってしまったのだろうか

派遣切りにあっても行くところが無い人や、増えてきている孤独死の数を考えると家族や身内の絆はどんどん薄くなってしまっているのだろう

この映画は姉弟の愛だけでなく、行き倒れになった弟の最後の姿を描くことによって、人間の死というものとそれに係わる社会のあり方についても触れている
ダメ弟が大阪の「緑の館」(?)という福祉施設で心ある人々や肉親に看取られながら死んでいく姿が描かれる

ダメ弟は母親代わりのおねーちゃんと自分が名づけた姪に看取られながら立派に、そして幸せに命を終えていくのである
人の死というものを前にしての家族の愛や絆の大事さや意味について考えさせられる
自分も死ぬときはこのような状況で死にたい、と思いながら観る

ダメ弟を鶴瓶が、しっかり者の姉を吉永小百合が演じている
鶴瓶は笑いと孤独と凄みのようなものを使い分けてはまり役である
吉永小百合は優しさと品格がにじむ演技で、二人の呼吸はぴったり

それに姪役の蒼井優と恋人になる加瀬亮もいい感じ
この二人をからませて今の若者の恋愛についても描こうとしている
町内会の絆とぬくもりも自転車屋と歯医者を登場させて描いている

絵が美しい
打ち上げられた花火の下を走る電車、夕暮れのなかにたたずむ通天閣、都会の夜明けの風景
美しいばかりでなくどこかで自分も見たような懐かしさを覚える景色である

画面がゆっくりと流れゆったりとした気持ちで映画のなかに漂える
家族の絆を中心とする映画であるが2時間半近くの上映時間の長さが気にならない
次第、次第に心が揺さぶられていって、気がつかないうちに涙がこぼれだす映画である


2010.02.05:choro:count(1,263):[メモ/映画]
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