年だからでなく年がいもなく
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「転移」 朝日新聞出版 中島 梓
評論家 中島 梓さんは「グイン・サーガ」の著者である作家 栗本 薫さんでもある
私と同じすい臓がんを患い、肝臓に転移したときの状況を書いた本、「ガン病棟のピーターラビット」について、2008年10月3日に「ガン病棟のピーターラビット」という題で投稿した
その中島さんが亡くなられたので2009年5月28日に「中島 梓さんの死」という題で投稿している
その中島 梓さんがお亡くなりになる直前まで日記形式で書かれた本が「転移」である
発売と同時に購入して一気に読み通した
同じすい臓がん患者として、肝臓に転移すればどのような症状が現れ、最後はどのようになるのか、また死に近づくにつれてどのような心理状態になるのかなどを知りたいと思ったからである
中島さんは最後まで自分の身体的衰退を冷静に受けとめて日記に書きとめている
それを読むと自分を客観的に見ながら、自分がやるべきこと、やりたいことを淡々と実行しているのが読み取れる
「ガン病棟のピーターラビット」には次のように書かれている
『私はガンになったことがそれほど嫌いではありません。さらに大胆に言い切
るならば、「ガンになってよかったかもしれない」とも思っています。それに
よって、私はものすごく沢山のことを学んだし、生きているということが、私
にとってはそれこそ、「当たり前のこと」じゃなくなり、とても芳醇な、色濃
い、めまいのするほど素晴らしいことになったのだから。もとからそうでした
けれど、さらに。』
『もちろん生物としての自分が滅びる時には、肉体的には大騒ぎもするだろう
し、やっぱり「もうちょっと生かしておいてくれ」と思うだろうけれども、家
族のことを思うと「もっと生きていてやりたい」と思うけれど、でも、それは
何年生きていても同じことを思うだろうし ー
だから私としては、ただひたすら、「生きられるだけ生きて、そして終わる」
しかない、ということでしょうね』
『私はいろいろな折りに「メメント・モリー」ということについて書いてきま
した。この言葉が好きで、同時にまた「生死一如」と言う言葉も好きです。こ
の「生死一如」の方は今回の入院で、最初に「ガン」ですといわれてからずっ
と頭の中に浮かび続けていました。所詮生も死もひとつのものの如し、生のな
かにあって死を忘れるな、死の瀬戸際にあっても生きようと思え ー という
ようなことを、漠然と今の私は考えています。でもそれよりも、そういう原則
論というか、抽象的な話よりも、それよりも、もっと、もっと、この一日、毎
日毎日を生きなくては。 私は生きていることがとても好きです』
彼女はこの「ガン病棟のピーターラビット」に書いた通りの生き方を貫いたのだ
ベッドにパソコンを持ち込んだりしながらも小説「グイン・サーガ」などを毎日のように死の直前まで書き続けている
さらにジャズピアノの奏者としてライブをこなし、着物や食事についても情熱を失わずに楽しみながら取り組んでいる
それらを記録した日記はノートへの手書きであり、最後は判読が難しい状況になりながらペンを動かしている
生きること、生き続けようとする情熱や行動力には驚きと尊敬の思いを抱く
身体的苦痛にさいなまれながら死ぬことへの恐怖心を打ち消して淡々と毎日を過ごしていく
それを可能にしたのは「生死一如」の心境と「生きていることがとても大好きなのです」という思いがそうさせてくれたのであろうか
さらにはプロとしてのやり続けることがあったからなのだろうか
この本の日記には死生観や死ぬことの恐怖や悲しみなどにはほとんど触れられていない
毎日の日常生活を淡々と書き込んでいるだけである
それだけに胸をうつものがある
自分も同じすい臓がんである
転移、再発したら彼女のように淡々と生きていけるだろうか、今のところ自信がない
凡夫の悲しさで恐れと迷いのなかで生きていくだけかもしれない
これをやり続ける!という確固たるものも持っていない
でももし転移、再発して余命を宣告されたら彼女と同じように生き方で終末を迎えたいとは思う
「生きられるだけ生きて、そして終わる」という思いを頼りにしてこれから生き直してみる
この本を読んでそう思った
2010.01.06:
choro
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