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▼『今こそ「老若男女雇用機会均等法」を制定せよ』

文芸春秋 8月号 城 繁幸

ハローワークでジョブクラブという若者就職支援を行っている
主なる対象者は就職氷河期にぶつかって思うように就職ができないでいる若者である

また現在大学や短大で就職支援相談を行っているが、今年は第2の就職氷河期といわれ、このままいくと第2のロスジェネとなり、将来にわたって負の影響に苦しむことになる
その負の影響は個人だけにとどまらず、構造的な社会問題になるとも言われている

昨年は高校生の就職状況も悪く、3月末まで高校生の就職支援活動に狩り出された
今年も同じようなことが想定される

おそらくは昨年と同じような助成金や再訓練という名のバラマキ的、刹那的な対策が繰りだされることだろう
慌しい対応でも実施しないよりはましかとは思うが、焼け石に水の感もぬぐえない

不景気な年に就職しなければならない若者が卒業時の負の影響を一生引きずりながら生きなければいけないというのは納得がいかない
社会のツケを若者に押してつけていいのだろうかと思う

路線から一度外れてしまった若者を本線に引き上げるような政策は打てないものだろうか、と考えていたとき、 城 繁幸氏が文芸春秋8月号に『今こそ「老若男女雇用機会均等法」を制定せよ』という題の提案が目に入った

城氏は問題の本質を理解するために現在の採用市場を学生、企業双方の視点から観察し、大きくわけて4つのギャップがあることを指摘している

@企業が求める人材と学生のギャップ

企業が求めている人材は「前例を打破
する能力のある自立した人材」なのに、日本型雇用を希望する若者の割合は増え続けている
その原因は企業の採用システムが、中途で人の出し入れをするようなシステムになっていないからである。ある程度しっかりしたレールに乗ろうと思ったら、新卒採用で勝負をかけるしかないからである

A企業の用意する処遇と学生の求める処遇とのギャップ

処遇の安定している大手企業の若手に流動化(離職)の傾向が見てとれる
苦労して採用した、自立した人材ほど、早く辞めて取りっぱぐれのない外資系などへ転職している
原因は「45歳以降の中高年になってから出世と昇給によって報いる」という年功序列制度の機能不全にある

B学生を採用したい企業と学生の希望する企業とのギャップ

日本型雇用は、終身雇用が保証され、賃下げも解雇もできない2階部分と、2階を支える土台として使われる1階部分に分かれる。2階は大手企業中心と公務員、1階は多くの中小企業である。学生と親は1階でなく2階を志望する。学生や親は「就職はなんとしても大手に」と願うのである

C終身雇用という建前と、現実の経済環境の間のギャップ

新卒を1人採用とするということは、およそ4億円の生涯賃金+諸経費を投資することになる。1度雇ってしまえば、後から賃下げも解雇も厳しく制限されることになる
これから40年近く、それだけの仕事があると確信できなければ、なかなか日本で新人は雇えない
外資系の方が採用の敷居が低い。年俸制である分、リスクを取った採用ができる

以上のような4つのギャップを踏まえて根本的な治療法として城氏は下記のような提案をする

『新しい「老若男女雇用機会均等法」の制定』
「単に正社員だからというだけで過剰に権利を守るのではなく、すべての人に能力によって平等に労働市場への参入機会を与え、おのかわり解雇や賃下げのハードルを下げる
  若者は良い仕事に就き、待遇をアップさせていくために必死で努力しなければならなくなる。それでも、今のように卒業年の運不運によって将来に希望の持てない非正規雇用に甘んじ続けるよりはマシだろう。リスクもあるかわりに成功のチャンスもみなに与え、正社員と非正規雇用の壁を取り払うのだ」

城氏の主張はすでに多くの識者から提案されていることである
一言で言うと「雇用の流動化」と言うことであるが、具体的にどうするかという全体的見取り図にはお目にかかっていない

すでに数年前から厚労省の音頭とりで「個人の時代」「個の自立・自律」「エンプロイヤビリティ」などと叫ばれているが雇用の流動化にはほとんど影響を与えていない
企業側でも「能力主義」「成果主義」「目標管理制度」「コンピタンシー」などと言われて企業内で取り組みだしてはいるが、曖昧な能力の評価のシステムを残したままである
採用も年1度の新卒採用が圧倒的に多く、通年採用なども広まっていない

城氏の言う雇用の流動化の新たな仕組みは、強力なリーダーシップを発揮して大胆な社会改革を行う政治家、行政官、経営者の出現を待たないと実現が難しいのではないか
もちろん個人の人生観、価値観、就労観などの意識改革も必要ではある

城氏の指摘する4つのギャップは雇用の流動化を進めるための指摘だけでなく、キャリアカウンセリングやキャリア形成を行っていくためにも認識しておく必要性を感じる

キャリア個人の自我意識の発達しているアメリカからの輸入物である
テキストに書かれているような理論や一般論をそのまま単純に日本の企業人や若者に当てはめていくのには問題があるような気がする
日本独自の企業風土や社会の仕組みに注力しながら対応すべきである

大企業を志望する学生や業種を問わない学生、就職よりも就社意識の強い学生のカウンセリングを行うときには4つのギャップを意識しながら対応していきたいものである

2010.08.01:choro

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