choro note

▼映画・黒澤監督作品

黒澤監督生誕何十周年かを記念してNHKで特集を組んで放映したものをダビングしていた
今回観たのは「酔いどれ天使」「野良犬」「悪い奴ほど良く眠る」の3本
「酔いどれ天使」は昭和23年、「野良犬」は昭和24年、「悪い奴ほど良く眠る」は昭和35年の作品である

昭和23年といえば小学校3年生である
自分の小学校時代の日本の都会の街並みや風俗、そしてファッションや人のうごめきを観ていると新たな感慨が浮かび上がってくる
昭和35年は大学1年生であった

白黒の画面を観ていると今まで忘れていたことも突然に思い出したりする
食料事情の悪さや日本全体が貧しかったことなど
貧しかったけれど、将来必ず良くなるという希望のもてた時代だったのだ
妙に懐かしく、切なくなったりする

3本の映画を観ていて印象に残った場面がある
夏に皆汗だくだくでうごめいている場面である
皆ハンカチと扇子を持ちながら、汗拭き拭き動き廻っている

当時は冷房がなかったのだ
生まれたときから冷房のなかで育ってきた今の若者たちには想像もできない世界だろう
よく動き廻れたものだと感心してしまう

3本とも共通していえることは、今観ても文句無く面白い
役者が個性的で印象強い
特に三船敏郎と志村喬には今の俳優には感じることができない深みのあるオーラーのようなものを感じる

黒沢監督と三船敏郎について述べている文章がある
文芸春秋 7月号直木賞作家の西木正明氏が「日本のラテン、秋田の終戦直後」と題して随筆を載せている

「昭和21年父母の郷里秋田へ疎開した
そこで観たものは、東北裏日本に抱く寡黙で朴訥な人々、表情も暗くて陰鬱というイメージであるが、実態は違う
秋田ではイメージとは正反対の、はちゃめちゃで明るく、多少の不幸や不具合は、一晩大酒飲んで笑い飛ばせば終わり、と言う人が多い」

そしてこのような秋田の有様を20数年前から西木氏は「日本のラテン」という
「日本のラテン」の意味するところを次のように書いている

「秋田県人気質を短く説明すると
貯蓄率は日本でビリ、ひとりあたりの日本酒摂取量は日本でトップ。自殺率も日本でトップ。男は見栄っ張りのおひとよし。

いささかまともな自慢は、平均身長が男女とも日本でトップということ。これ実例で裏づけるとすれば、当時の日本人としては異例の長身であった。世界のクロサワこと沢明と同じく世界のミフネこと三船敏郎は、ともに秋田人だ。黒沢の両親は武家屋敷で知られる角館の近郷の出身、三船の出自は鳥海山の麓、矢島町の近在である」

黒沢監督が秋田人であったことは知っていたが、三船敏郎が秋田人であったことは初めて知った

この秋田人の二人が日本の映画の黄金時代を作ったのだ
身長があったということだけでなく「日本のラテン」のDNAが二人を国際人とならしめた大きな力といえるのかもしれない

西木氏は随筆の最後に近著の紹介をしている
本の題名は「ガモウ戦記」で「日本のラテン」の秋田の終戦直後を描いたものだそうである
ところがこの題名のゆえに「西木がとうとう正体を現した」といわれているという
秋田の人であればその理由はわかるはず

西木氏は私と同じ34年の秋田高校出身である
東京の同期会では何度かお会いした

「ガモウ戦記」を読んでみよう


2010.07.10:choro

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