choro note

▼映画「春との旅」

春とは孫娘の名前
北海道増毛に住む2人暮らしの祖父と孫娘が口論した(らしい)とあとでわかるが・・・
孫娘は足の悪い祖父を5年も面倒見てきたが、地元での仕事を失ってしまった
切羽詰って東京へ出て仕事を探そうと思い、祖父に兄弟の世話になるように話したら祖父は激しく怒る

増毛の掘っ立て小屋のような住まいから怒る祖父と孫娘が諍いながら飛び出してくるシーンから映画が始る

祖父は若い孫娘を孫娘と2人で疎遠になっている兄弟、姉を訪ねる旅に出た
いつまでも孫娘を束縛するわけにはいかないと思いながらやりきれない思いと言い知れぬ怒りをかかえながら

気仙沼、鳴子、仙台と祖父の兄弟と姉を訪ね歩き、祖父の面倒を見てくれるように頼むのだがうまくいかない

祖父と兄弟と姉との会話から、祖父の生い立ちや、人となりや家族関係が分かってくる
祖父のニシン漁を夢見ての生き方や、人に甘えながらわがままな生き方を貫き、今まだ甘い考えに浸っている1人の老人像が描き出される

祖父役を仲代達矢が力演している
最初は老いたる漁師としては立派過ぎる風貌と、あまりの力演さに多少「くさみ」を感じながら観ていた
孫娘と2人の旅が進むにつれてその「くさみ」も感じなくなっていった

結局は兄弟、姉の誰も面倒見てくれるとは言わない
兄弟、姉皆それぞれの家庭の事情を抱えているのだ
兄弟との諍いの場面もある

そんな祖父と兄弟、姉とのやり取りを見聞きしていた孫娘の心の中に、離別している父親に会ってみようという思いが突然芽生える

仙台からフェリーに乗って北海道の静内の牧場にいる父親を孫娘と祖父は訪ねる
父親と孫娘は十数年ぶりで再会する

孫娘の母親は自殺していることは、祖父と気仙沼の兄との会話から分かっていたが自殺の原因は語られていなかった

父親は再婚していた
祖父と再婚者のはからいで、父と娘は2人きりで話し合う

そこで話される親子の場面は圧巻である。圧倒される
心の中に大きな錘をぶつけられたような感じ
心の中に涙が流れる

母親は働きにでた飲み屋で男をつくり過ちをおかす
それを許せなかった父親は家を飛び出す
その数年後に母親は入水自殺をしたのだ

その父に向かって「1度の過ちを許してやれなかったのか!!!」と言い放つ娘

その後、蕎麦屋で蕎麦をすすりながら、祖父は孫娘に、父親は妊娠した母親と結婚するために、反対する両親をすてて増毛に来てくれたことを話して聞かせる
そして「父親をうらむな」と付け加える

静内を後にするときに孫娘は祖父に言う
「じいちゃんの面倒は自分がみるから、結婚する相手はじいちゃんの面度を見るという人にするから!」

孫娘は増毛からスタートした今回の旅で、自分と祖父の関係について今まで気づかなかった何かを感じ取ったのだ。祖父への思いも変わったのだろう

2人は増毛への帰りのローカル線に乗った
増毛の駅に着く直前、祖父は崩れ落ちるようにして亡くなる

孫娘を演じる徳永えりが素晴らしい
久々ぶりの骨太女優の誕生である

祖父の姉役として懐かしい淡島千景さんが登場する
その他、大滝秀治、菅井きん,柄本明、香川照之など芸達者の役者で固めている

祖父と孫娘が訪ね歩く景色や町の風情も懐かしく、美しい

増毛は北海道に住んでいたとき、息子と一緒にツーリングに行った先
静内は馬の種付けを見に行って野生わさびを採って帰ったところ

仙台から苫小牧までのフェリーには宇都宮、仙台の息子達と乗って札幌の娘家族と合流するために乗っていった
還暦祝いの家族旅行であった

仙台の街もドキュメント風に撮っているので臨場感のある画面になっている

いいときも悪いときも人は人に寄り添って生きていきたいのだ
誰しもに訪れる人生の転機
その転機を人に寄り添いながら切り抜けていけたら、人生は素晴らしい
残り少ない人生を生きていく身としてその思いを強くする

生きることは哀しいことでもあるが、素晴らしいことでもあるに違いないのだ
そんなことを考えてしまう映画であった


2010.05.30:choro
[2010.06.14]
いい映画ですよね (長朗)
[2010.06.13]
いい映画でした (ひだまり)
[2010.05.31]
お薦め (長朗)
[2010.05.30]
私も見たくなりました (鑑査役)

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