choro note

▼映画「愛を読む人」

私好みの映画ということもあるが心が揺さぶられるような感動を味わうことができた映画だった

ストーリーが素晴らしい
後でわかったことであるが世界的ベストセラーになった小説の映画化である

1958年のドイツが舞台で15歳の少年マイケルは21歳年上のハンナと知り合になり、ベッドを共にするようになる
ベッドのなかで彼女に頼まれて本を朗読してやるようになるが、ある日突然彼女は姿を消してしまう

数年後マイケルがハンナを見たのは法廷の場
マイケルは大学の法科の学生、ハンナは戦時中の収容所に関する罪で裁判にかけられていたのである

その法廷の場でマイケルはハンナが秘密にしていたあることに気がつく
その秘密を公にすればハンナの罪は軽くなると知りつつも、マイケルはできなかった、というよりもしなかったというべきか

その秘密とはハンナは字が読めなかった、ということ
この秘密はこの映画のミステリアスな部分とストーリー性の豊かさの大きな鍵となっていく

十数年後に終身刑で服役しているハンナに、判事になっていたマイケルはその昔、ベッドで読んで聞かせた本を自らの声で録音して刑務所へ送る
その二人にドラマチックな最後が待ち受けている

パンフやHPに「少年時代のひと夏の初恋」だの、「生涯の愛へと変わる至福のラブストーリー」などと書かれているが、そうなのだろうか

映画をみればわかるが、少年と36歳の女性は出会ってすぐに激しいセックス場面を演ずる
年上の女性が少年を誘って肉欲の海へと引きずりこんだ格好である
少年にとっては、初めてといっていい女性との恋がカルピスの味ではなくて、芳醇な香りを放つワインの味を与えてくれる恋となってしまったのだ
少年はおそらくは、天にも昇る気持ちですべてを投げ打って、その恋の味を貪り飲んだことだろう
2人にとっては濃密な男と女の関係の一夏だったのだ

字を読めない女性、過去の罪の意識を背負っていると思われる女性にとっても無垢な少年の存在は救いであったのではないか
純粋な少年との関係の中に生きる希望を見出そうとしたのではないか

それは年上の女性からの少年の誘惑というよりも、字を読めないというコンプレックスを気にせずに対等に向き合える相手としての少年との真剣な愛であったかもしれない
だからベッドシーンは2人の魂がぶつかりあうような激しさと厳粛さと、そして切なさを醸し出してくれている

このような役をこなせるのはケイト以外には居ないということで監督はハンナの役を最初からはケイトと決めて製作に入ったそうである
2人が出会ってベッドを共にする場面のケイトの演技は素晴らしい

字が読めない40歳近い女性が、男性にとってどれほどの魅力を発揮できるのだろうか
一般的に考えれば、肉体的な魅力を別にすれば、男心を掴むためには態度や言葉遣いなどではハンディを負うのではないか
そんなハンディを負った女性像を全身でうまく表現し、かつ全裸に近い肉体をさらしながらケイトは演ずる

いつもケイトの華やかさはなく、ふつうのおばさんのような顔と振る舞いが続く
何かを背負っているような硬い表情、短めな台詞とそっけない言い方、そのなかに少年との愛を必死に追い求める姿を演じている

年上の女性が少年を手玉にとっていいように扱うというような印象は残らない
むしろいじらしさが伴って場面がよみがえってくる
ケイトならではの演技である

HPにある「生涯を通じての至福のラブストーリ」というコメントもしっくりこない
少年にとっては一夏とはいえ、セックスを伴ったハンナとの関係は彼のその後の人生に大きな痕跡を残したのではないか
結婚して娘が一人居るが、離婚している    幸せな家族ではないようだ
男として、一夏の重い体験を引きずりながら生きているのではないだろうか

なぜ録音テープを送るようになったのだろうか
愛情というよりも、もっと複雑な思いがあるような気がしてならない

影の世界での恋だったということやハンナが囚人虐待という罪を犯した人間で服役中であるということ、そして自分が法曹の世界に身を置いていることなどが複雑に絡み合って、立派に成人したマイケルをそのような行動に駆り立てたのではないか
贖罪意識といったら大げさになるだろうか

ハンナの気持ちはどうだったのだろう
字が読めなかったことが彼女にとっては他人に知られたくない秘密となり、人生にとって大きな障害にはなった
しかしそのことによって濃密なひと夏の体験をし、その体験がその後の彼女の生き方のなかで豊かなものへと転換していったという風に思うのは表面的過ぎるのだろうか

この映画は観ていて切なくなる
涙腺から涙がでるというよりも腹の底から涙が送りこまれてくるような感じである

虐殺裁判や生き残った者の証言や収容所の景色なども出てきて重たい映画である
そんな映画でも終了間際になって希望を抱かせてくれるような救いの場面がでてくる
最後はマイケルが娘を伴ってハンナのお墓まで出かけ、自らの体験を報告しようとするところで終わる

この映画はラブストーリー映画といえばそういえなくもない
でもその範疇には収まりきれない大きなものを抱え込んだ映画のような気がする
観たあとも感動が波のように押し寄せてくる映画である

女性が圧倒的に多く、涙、涙の館内であったが、この映画は男性に観てもらいたい映画のような気がする




2009.07.10:choro
[2009.07.22]
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[2009.07.22]
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[2009.07.13]
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