choro note

▼行方不明になった先生

仕事で秋田へ行った
定年になってから50余年ぶりで再会をした小学校時代の先生宅を訪問してみた
86歳になるが、今年の4月の同級会にも参加してくれた
その時、「小学校の校歌を歌うぞ!」いいながら、旧制中学校の校歌を朗々と
歌いだした先生である

同級会以来の再会である
先生はお元気な姿で迎えてくれた
お会いするなり奥さんからの、先生が行方不明になられた話が出てきた

7月のある日、5時頃奥さんが外出先から家に戻ってみると居るはずの先生と自転車
が見当たらない
フイルムを買いに行くとメモがあったので帰りを待っていたが6時過ぎても帰らない
その間、心当たりに電話をしたり、知人に探してくれるように頼んだが、どこからも連絡がない
最後に、万策つきて警察に捜索依頼をしたのは7時近くになってから

その警察から連絡があったのは9時が過ぎてから
5キロくらい離れた場所で一人ぽつんと座っている先生を警察が発見したくれたのだ
そうだ

警察の車で帰ってきたときには、自宅に親戚や近状の人たちが沢山集まっていた
それを見た先生が発した言葉
「なんでこんなに人が集まっているんだ!」「俺が何かしたのかな?!」
そしてそのまま皆のいる前でごろりと横になってしまったのだそうだ

照れ隠しの気持ちと、自分への情けなさが入り混じっての複雑な思いが取らし
めた態度だったのだろう

その話を奥様がするとき、先生は恥ずかしそうに笑みを浮かべながら聞いている
いたずらっ子がいたずらを見つけられたとき見せるばつの悪そうな顔である

先生は師範学校卒業と同時に志願して満州に渡り開拓民の子供の教育にあたられた
その後シベリアに抑留され4年の強制労働を終えて帰ってこられたのである
私たちが受け持ってもらったのはまだ戦争の匂いが残っている時代である

シベリア帰りの先生の凛とした姿勢と熱き想いは私たちの心にしっかりと刻み込まれている

人生の終わりを迎えようとしている今、尊敬できる先生にめぐり合えたことに感謝している


2008.12.16:choro

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