アーキビストのノート
▼2021年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会概要報告
2021年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会の概要をご紹介いたします。
報告会概要
日時:2022年3月27日(日)14:00〜17:20
会場:オンライン会議ツール「ZOOM」を使用
オンラインでの開催となりましたが、40名近くの方にご参加いただき、活発な議論が行われました。
2本の報告と記念講演について概要をご紹介いたします。
第1報告:栗原隼人氏(中央大学大学院) 「戦国大名大内氏発給文書のアーカイブズ学的研究」
栗原氏の報告は、戦国大名を題材にしたアーカイブズ学研究の蓄積があまりなく、取り組むべき課題が多く残されている状況のなか、戦国大名大内氏が発給した文書の発給構造と管理方法の考察を通して、中近世移行期におけるアーカイブズの在り方とその変遷の明確化を試みた報告であった。
報告の具体的な内容として、掟書などの文書から大内氏の組織内において「文庫」と呼ばれるアーカイブズ機関を有していることを明らかにし、大内氏の文書管理方法がのちの近世期における毛利氏のアーカイブズ管理にも影響を与えた可能性も指摘している。
また、戦国大名発給文書は歴史学に都合の良い分類がされてきたことから、アーカイブズ学における分類の必要性を指摘した。歴史学の分類ではサブシリーズが多く設定されるため、サブシリーズを「証拠文書」と「情報伝達文書」の2点に設定することで階層構造がより明確となるアーカイブズ学的文書分類法を提示された。あわせて、アーカイブズ学的分類にも大内氏の奉公人による連署奉書が2種類のサブシリーズに分類できないことを課題として列挙し、奉書の特徴から署名の違いに応じてアイテムレベルで連署奉書を分類するという形で課題の克服を試みた報告であった。
コメントカードより
・共通のシリーズ分類で大内家と毛利家の双方の文書を分析し、戦国大名家の文書には共通性があることがわかった。
・歴史学の専門教育をうけたことがなく、恐縮ながら、十分に理解しえたとは言えないのですが(申し訳ございません)、アーカイブズ学のキー概念や枠組み、また論文の構成、深め方など、自分なりに勉強させていただきました。ありがとうございました。
・大内氏文書と毛利家文書を見比べることで大内氏が毛利氏の文書管理に影響を与えていたと最初にご指摘されていましたが、大内氏文書が毛利氏以外にも文書管理について影響を与えた大名はいるのでしょうか。また、他にもこのような事例はいくつかあるのでしょうか。例として提示されていたのが毛利氏のみであったため、中世移行期におけるアーカイブズ学の在り方の変遷について明らかにされるためには他の大名の例についても触れていただけるとより説得力があったかと思いました。
第2報告:江藤敦美氏(株式会社ワンビシアーカイブズ)「電子文書の管理と保存―民間企業の事例分析―」
江藤氏は、民間企業における電子文書の管理の現状と課題について報告を行った。
報告では、民間企業3社の事例を挙げ、内部統制機能(修正・削除履歴と確認方法、不正検知機能など)、長期保存対応(バックアップ運用、データ移行方法など)、BCM対策(サーバー設置場所、復旧方法など)を比較・検討。電子文書管理は、時代の流れや担当者の変更に影響を受けづらい設計と運用が必要不可欠である。しかし、組織改編や人事異動は避けて通れないものである。であるからこそ、文書管理システムは、属人性の排除と、何よりユーザーの使い勝手を重視した体制作りが大切であると結論づけた。
最後に江藤氏は、今後の展望として、@レコードマネジメントとアーカイブズの分断をなくすこと、Aアーキビストの進路として積極的に民間企業を視野に入れること、B官民の分断なき人材交流や産学連携など「橋渡し的存在」が必要であること、以上3点を挙げた。
コメントカードより
・ワンビシさんが中間書庫を担当されていたと思うのですが、どうなったのかなぁと思い出していました。企業内でのご研究、事例をどの程度活用できるか、舵取りが難しいと思いますが、ホットで具体的であることは間違いないので、今後もご研究の成果の公表を期待しています。
・個人的には日頃なかなか接触することのない「知らない世界」でしたので、勉強になりました。ビジネスをベースに置く企業などの組織体と、”アーカイブズ””記録管理”とが、今日、どのように(な)かかわりをもっているのか、その一断面をみせていただいたような思いがしました。ありがとうございました。
・民間企業の事例分析とその還元という、あまり蓄積のないテーマで、意義のある取り組みだったと思います。
記念講演:大友一雄先生(国文学研究資料館名誉教授)「在外日本資料の情報資源化の取り組み―バチカン図書館所蔵資料を事例に―」
長年アーカイブズカレッジを担当され、2020年度をもって国文学研究資料館を退職された大友一雄先生に、在外日本資料の情報資源化の取り組みについて、バチカン図書館所蔵のマリオ・マレガ資料を事例にご講演頂いた。
日本在外資料(史料)とは、日本の諸団体の組織活動によって発生して現在、海外に所在する資料群である。海外では、日本研究者は少なく、資料に対する関心も低い上、諸外国の所蔵機関では日本語を整理する人がほとんどいないという問題点を挙げられ、海外機関・研究者との連携が必要であることを指摘された。
そうした現状の中、2013年から発足した、マレガプロジェクト(バチカン図書館マリオ・マレガ資料に関する共同研究事業。バチカン図書館、国文学研究資料館、東京大学史料編纂所、大分県教育庁が連携)を事例に、資料の発見から調査・研究、目録公開に至る過程を通じて、どのように資料や目録を公開するのか、その試みと成果を紹介された。特に、資料目録だけではなく、現状記録や概要調査で得られた情報を公開する重要性、それを実現する上でのデータベースや検索目録の工夫の必要性について述べられた。
コメントカードより
・度々PJ名はお伺いしておりましたが、今回しっかり学ばせていただきました。大友先生のお話を直接お伺いすることができ誠に光栄です。日本語で資料を整理するところからのスタートで非常に困難な道のりだったのだと知り、改めて社会的に有意義な研究であるとのことを認識いたしました。
・現状記録や概要目録の目的が曖昧になりがちという点、非常に刺さりました。自身の仕事を省みたいと思います。
・修了論文報告会にて先生のお話まで伺うことができ、有難く思いました。写真や図などもまじえていただき、門外漢ながら興味深く拝聴しました。概要調査など(のありかた)について触れられた点も印象に残りました。お時間がもし残されておりましたらば、先生が疑問や課題に思われておられる点についてもう少しお聞きできましたらなお幸いでございました。ありがとうございました。
以上となります。
最後に、ご報告いただいたお二方、記念講演をお引き受けいただいた大友一雄先生、そしてご参加くださった皆様に心より御礼を申し上げます。
2022.04.09:archives
⇒HOME
(C)zabu
powered by samidare