アーキビストのノート

▼2016年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会概要報告

皆さま、ご無沙汰しております。
すでに今年度のアーカイブズ・カレッジ前半戦が終了しましたね。
毎年更新が遅くて申し訳ありませんが、
2016年度の修了論文報告会のようすをご紹介します!

2016年度の報告会は、2012年度にもお世話になった国士舘大学が会場でした。
報告会の前に、国士舘史資料室の方のご厚意で、同室の見学ツアーも行いました。
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報告会は43名、懇親会は31名の方にご参加いただき、おかげさまで盛況裏に終わることができました。
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各報告の概要とコメントを紹介していきます。

第1報告:鎌田寛之(日本大学大学院)「鎌倉幕府の文書管理」
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鎌田報告は、鎌倉幕府の文書管理のあり方について、幕府の訴訟機関である問注所と引付方を事例に考察した。鎌倉時代の文書管理研究は、公家や朝廷の研究が進展する一方で鎌倉幕府に関する研究は少ない。そこで、鎌倉幕府による文書管理の目的や幕府の保管文書の廃棄と再利用に注目し、鎌倉幕府の文書管理体制の解明を試みた。
鎌倉時代前期〜中期の鎌倉幕府の文書管理は、幕府機構の未熟さなどから体系的で一元的な文書管理は行われておらず、訴訟文書は問注所執事や引付頭人、奉行人らの私宅や文庫に置かれていた。しかし、鎌倉時代中期以降には、訴訟案件の増加とともに訴訟制度が変化し、加えて組織機構や指揮命令系統が整備されたことで、文書管理のあり方にも変化が生じる。結果として、関係者による個人的な管理から、幕府の文庫による文書の集中管理と引付奉行人による管理という文書管理システムに移行したことを明らかにした。

コメントカードより…
・幕府の文書管理変化の契機を訴訟の増加に求めているが、此の訴訟増加の背景を加味することにより、鎌倉幕府の文書管理体制の特質を歴史的に位置づけることが出来るのではないだろうか。
・鎌田報告を楽しみに参加しました。「文庫」に納められていたものは、明らかに文書(永久を含む)以外のものと一緒だったことや、問注所執事の文書でも、担当職務以外の文書も納められていたことが史料からわかりました。イメージとして公家や社寺(荘園領主)の保管庫のイメージに近いと感じました。それが各組織ごとの文書のみを保管するように変わっていったこと(沙汰未練書で明記される)がたいへん興味深かったです。史料が限られる中で大変だったと思います。今後を期待しています。

報告者より…
この度は報告の機会をいただき、誠にありがとうございました。
皆様からのご意見・ご指摘をもとに、今後も鎌倉幕府の文書管理について研究していきたいと思っております。
そして報告会を主催していただいた有志会の皆様に改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。


第2報告:吉田敦則(東京大学大学院)「内田祥三関連資料のデータベース化とその編成・記述について」
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日本の近代建築家として知られる内田祥三の関係資料は、東京都公文書館所蔵「内田祥三文庫」(9784点)、東京大学文書館所蔵「内田祥三関係史料」(607点)、妙寿寺所蔵「内田所蔵宗教関連図書」(72冊)が知られる。
吉田報告は、この3館に所蔵される資料群の目録とその公開状況、記述形式についての概況を解説した後、特にWEBでのデータベース・目録公開の変化とその重要性について、東京都公文書館を事例に検討した。そして電子媒体での記述効果を最大限に活かせる方法として@機械可読、A横断検索、B共通規格という3点の提案をおこなった。
本来であれば同一個人の資料群であるため、統一の記述編成が望ましい。しかし所蔵館の違いや文書、建築図面、経典など資料の性格も異なるため、利用者の手間が生じている現状がある。その上で、記述編成の工夫とWEBでの目録公開など電子媒体を利用し、そうした非効率を改善することが、記述の効果を最大限活かせることにつながっていく、と結論付けた。

コメントカードより…
・(三報告いずれも興味深かったが)、特に内田祥三の資料の編成・記述について報告された吉田さんのテーマは私自身の関心に近く、とても勉強になった。

報告者より…
アーカイブズカレッジ修了論文は修士論文と並行していたこともあり、内容がもの足りないと提出時反省していました。今回報告のお声掛けをいただいた際、論文で不十分だったところを見直し、調査を進めて発表する良い機会と考え挑戦させてもらいました。
内容の整理に時間がかかってしまい、追加資料のご相談をした東京都公文書館佐藤様、高野様、東京大学文書館森本様、宮本様にはお時間のないなかご対応いただくことになってご迷惑をおかけしましたが、迅速にご対応いただき無事報告できました。資料の利活用について調べる中で、実際の利活用に携わる方々の資料に対する熱意や情熱を知りました。もっと優れた論文は多数あったかと思い物足りない発表汗顔の至りですが、報告を行う過程で多くの収穫を得ることができました。ありがとうございました。ご清聴いただいた皆様にも何か得るところあれば幸いです。


第3報告:宋舒揚(東京大学大学院)「戦後における中華民国北平(北京)市政府の公文書管理」
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宋報告では、中華民国期の北平(北京)市政府の公文書について、制度的背景および公文書生成のあり方、さらに1949年の人民解放軍による接収に至るまでの過程と、現在の整理・公開状況を考察した。
制度的背景や文書生成のあり方については市政府の文書管理規則を元に明らかにし、さらに国民政府が1934年の国史館構想に基づき、1939年には各機関に移管要求をしたが実質的な強制力を持たなかったこと、戦中戦後の混乱で散逸や秩序混乱が発生したのちに、接収に至ったことなどを指摘した。
現在の状況としては、整理済と未整理のものが混在していること、検索手段に難はあるもののデジタル化は進んでおり、公開・サービス改善への意欲はあることなどを紹介した。

コメントカードより…
・档案館の人と話したことがありますが、国家とは別に市政府の館があるのがわかりました。歴史を大切にしている?中国にはもっと活用できる機関になって欲しいですね。
・中国に関する話が出ましたが、隣国でもこんなに差異があるのだなと認識できました。
・各時代の中央と地方の文書管理行政における関係をぜひ議論の前提に組み入れてほしいと感じました。北平(北京)市政府がどの程度自律性をもっていたのかわかると、北京市の位置づけが明確になるように思います。

報告者より…
今回は発表の機会をくださり、誠にありがとうございました。
みなさまから貴重なアトバイスをいただき、また懇親会ではアーカイブズ学関係の方々と交流ができ、大変勉強になりました。
これからもアーカイブズ・カレッジで得られた経験を活かしていけたらと思います。


全体をつうじてのコメント
・学部生の身で参加させて頂きましたが、非常に興味深く楽しかったです。ありがとうございました。
・若い方が時代や国を越えて文書管理のあり方を学び、アーカイブズ学から実務に対して提言する姿に感動しました。
・学部生でアーカイブズカレッジに参加できず、アーカイブズ学を学ぶ機会がなかったがこの会を通じて少し学べた。
・ありがとうございました。内容もバラエティがあり充実していたと思います。
・非常に貴重な機会を設けていただきまして、ありがとうございました。他の方の研究については、ほとんど知ることがなかったので、レベルの高い報告を聞くことができて大変勉強になりました。
・今年度の修了生として、同期の人達の研究に触れてみたいと思い参加しました。歴史的な文書管理、現代の文書管理、国外の事例など様々な分野の研究を知ることができ、改めて学んだことを復習し、定着させる場とすることができました。
・国内・外の文書管理史・データベース記述のお話、とても興味深かったです。
・アーカイブズ・カレッジの修了論文で修了生の方が取り挙げた内容について、よく知ることができました。自分もアーカイブズに関して、深く学習していき、作成した自己の論文や研究に反映・発展させる必要性を感じました。

最後に、ご報告いただいたお三方、ご参加くださった皆さま、そして会場を提供いただいた国士舘大学の関係者の方々に心より御礼申し上げます。
2017.08.08:archives

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