アーキビストのノート

▼2014年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会概要報告

2014年度報告会の、各報告の概要とコメントを紹介いたします。
今年も、励みになるコメントを、ありがとうございました!

第1報告:島崎依子(お茶の水女子大学大学院M1)
「近世豪農の家文書における階層構造分析
 ―相模国高座郡一之宮村入沢章家文書を事例に―」

概要:旧名主家に残された文書群を対象として、
   文書館が作成した現秩序に則った目録を、文書の性格や構造を踏まえ、
   どのように階層構造別に再編成できるか実践し、
   より良い目録作りを提案した報告でした。

フロアより
・「近世豪農の家文書〜」の報告を非常に興味深く思いました。
 一点感じたこととしましては、「近世」に限らない方が、入沢家の特徴を
 踏まえた報告となったのではないか、ということです。例えば、入沢知周
 や入沢I二は、「近代」期の文書が多いようです。そのことを考えると、
 入沢家の特徴を考えるには、近代の支援も重視する必要があるように
 思います。「分析対象」の項でも、近代の内容を加えても良かったのでは
 ないでしょうか。

・今回は全4145点の内、分類が困難、不可能な史料を除いた2725点を
 分析されていましたが、実際の現場では、分類できないものを目録から
 除くわけにはいかないので、その場合どう目録を編成するかは課題であると
 感じました。

・構造分析と目録編成を分けて考えてみたいと思いました。
 つまり、「数が一点しかないから一つのシリーズにまとめた」とする前に
 「一点しかない」状態での分析結果を記録として残すというのもありだと
 思います。

報告者より
・報告の機会をいただきまして、こちらこそありがとうございます。
 会場の皆様からのご意見、ご指摘のおかげで、自分がやってきたこと、
 またその課題について、ようやく少し理解することができたと思います。

第2報告:佐藤孝郁(中央大学大学院M1)
「決戦非常措置要綱と戦時公文書廃棄問題」

概要:戦時公文書の廃棄については、戦後の焼却が強調されてきたが、
   戦時中、紙資源確保のために廃棄された文書もあったことに注目し、
   内務省、軍需省、外務省、陸・海軍省の規程などから
   実態の解明を試みた報告でした。

フロアより
・公文書の処理については、資源以外に場所(スペースの確保)も
 あったのではないでしょうか。また、決戦― 以降にも関連の通達が
 あるかもしれません。

・公文書が敗戦時に大量廃棄されたというのは知っていましたが、
 戦中に再生紙利用目的で廃棄されたことは初めて知りました。
 勉強になりました。

報告者より
・貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
 本日あった指摘をもとにまた努力して参ります。

第3報告:長島祐基(一橋大学大学院D1)
「都立多摩社会教育会館市民活動サービスコーナー資料の
アーカイブ化に関する考察」

概要:多摩で、1972〜2002年に都の社会教育事業の一環として行われていた
   市民活動のなかで作成・収集された文書群について、
   その概要、現状、保存・活用に向けての課題を
   当事者の観点から概括した報告でした。

フロアより
・都政の記録であり、教育史の史料であり、地域の記憶であり、住民運動の
 記録でもあるという、たいへん貴重で重要な記録ないし歴史資料であると
 思いました。将来、たくさんの人が活用できるように、どうぞ頑張って
 ください。
 フロッピーディスクの話がありましたが、現代の組織アーカイブズにおいて
 その記録が記録されている媒体の移りかわりにより再生困難となる問題
 について、考えさせられました。

・資料を収集する人たちの活動に関する資料も収集する必要がある、
 というのはわかってはいるが難しい問題であると思う。
 人間の活動は次の瞬間には「歴史」となっていくが、一体どこまで保存される
 べきなのか。難しい。
 [上記コメントを下さった方より:]山田先生、おつかれさまでした。

・行政の文書サイクルから逃れて残った文書群を整理・保存・公開していく
 ためには、行政と覚書などを結び明文化することが手続きとして大事だと
 いうことを実感しました。

報告者より
・普段実務家の方からコメントをいただくことがないので良かったと思う。

記念講演:山田哲好先生(国文学研究資料館准教授)
「アーカイブズカレッジの思い出」

アーカイブズカレッジの歴史を、
近世史料取扱講習会の時代から説き起こし、
国内のアーカイブズ学をめぐる動向とカレッジのカリキュラムとの関係や、
現在のカレッジが抱えている問題などをお話いただきました。
長らく運営に携わってこられたなかでの、
嬉しかったこと、大変だったことなど、
印象的なエピソードもお話し下さいました。

全体をつうじてのコメント
・主催された方々、おつかれさまでした。今年もありがとうございます。
 先生のお話にもあったけど、様々な分野からの参加、ご発表、
 たのもしく思います。ぜひいつか短期を受講したいものです・・・

・いずれの報告も私のあまり知らない内容についてだったのでとても興味深く
 聴かせていただきました。今後もこうした報告会等についてネット等で
 どんどん告知していただけると幸いに思います。

・三報告とも議論を含め、大変内容の濃いもので勉強になりました。
 修士課程の学生がこれだけの成果を出していることにおどろきました。
 身がひき締まりました。アーカイブズ・カレッジを受講していない者として、
 OB・OGのネットワーク連携をうらやましく思います。
 これからもがんばってください。

・大変労力をかけてまとめられた史料をわかりやすく説明いただき、
 ありがとうございました。
 皆様のお話をきいて、自身の仕事に反映させていただきたい部分が
 多数ありました。ありがとうございました。

・近世・近代・現代とバランスのとれた報告が聴けて有意義であった。

・現在、文書の目録作成をしている中で、参考になる発表や論文があり、
 良かった。

・1990年に史料管理学研修会を受講した者です。
 若い世代がカレッジのネットワークを活用しながら日本のアーカイブズの
 発展を支え続けるんだなあと励まされました。
 山田先生の講演会を実現してくださってありがとうございます。

以上です。
次年度も充実した報告会ができるよう、一同努力してまいります。
2015.03.22:archives

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