さがえ九条の会

▼防衛庁の「省」昇格関連法案がもっている意味 そのA

 〜五十嵐仁の転成仁語より〜

 今回、国会に提出された自衛隊法の一部「改正」案のうち、自衛隊の本来的任務への格上げに関する条文は次のようになっています。
 第三条第一項中「わが国」を「我が国」に、「当る」を「当たる」に改め、同条第二項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
 2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
  一 我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
  二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動
 この最後の文章に注目してください。「国際社会の平和及び安全の維持に資する活動」とあるのが、海外での戦争への参加を意味しています。
 
この文章を含めて、以下のような文章を比べてみてください。
@国際社会の平和と発展に寄与する態度を涵養する
A国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う
B国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動
C国際社会の平和及び安全の維持に資する活動
 この4つの文章はきわめて似通っています。「国際社会の平和」という部分は、完全に同一の文章です。

 上に掲げた文章の最初のものは自民党憲法改正草案大綱(たたき台)(04年11月17日)にあり、2番目のものは今国会で審議されている教育基本法「改正」案で、3番目は自民党新憲法草案(05年11月22日)の第9条に3項として付け加えられている文章です。そして、最後のものが先ほど示した自衛隊法の一部「改正」案になります。
 どうして、このように似通った文章になるのでしょうか。それは、目的が似通っているからです。
 いや、これらの文章が目指すところのものは、ただ一つでしかありません。それは、「国際社会の平和」のために自衛隊を海外に派兵することです。

 この「国際社会の平和」が米軍の戦争によってもたらされると認められれば、「国際社会の平和及び安全の維持に資する活動」とは、米軍とともに戦争することを意味することになります。そのために自衛隊を海外に派兵すること、そのような自衛隊の活動に国民こぞって「寄与する」ことが、これらの文章が目指しているところのものにほかなりません。
 また、4つの文章の比較から分かることが、もう一つあります。それは、最初の二つの文章の「国際社会の平和と発展に寄与する態度」が同文であること、後の二つの文章の「国際社会の平和と安全を確保」と「国際社会の平和及び安全の維持」という文章が極めて似通っていることです。

 つまり、教育基本法「改正」案のなかには、自民党憲法改正草案大綱(たたき台)(04年11月17日)の文章がそのまま組み込まれ、自衛隊の「省」昇格関連法案のなかには、自民党新憲法草案(05年11月22日)とほとんど同じ文章が入り込んでいるということになります。
 この事実は極めて重大です。もともと自民党が憲法を変えることで実現しようとしていた内容が、憲法が変わっていないにもかかわらず、個別法のなかにはめ込まれているからです。つまり、個別法によって憲法が踏み越えられているということを意味します。
 これはまさに、法的「下克上」そのものでしょう。マスコミの記者さんも、ボーッとしていないで、これくらいのことはきちんと報道してもらいたいものです。
 新聞には、何のために「論説委員」がおり、「解説欄」があるのでしょうか。教育基本法や自衛隊法の「改正」案が出されてからずいぶん時間が経ちますが、ここに書いたようなことを指摘した「論説」や「解説」にはほとんどお目にかかったことがありません。
 誠に残念です。ちゃんと「社会の木鐸」としての役割を果たしていただきたいものです。

 民主党も民主党です。ここに書いたような問題があることを理解しているのでしょうか。
 防衛庁と一緒になる防衛施設庁の「無駄使い」を問題にしていますが、自衛隊の存在自体が無駄なのだということが、どうして分からないのでしょうか。
 参院選に向けた「政権政策(たたき台)」で「専守防衛の原則に基づき」との立場を明らかにした以上、この「改正」案には賛成できないはずです。衆院本会議での賛成投票と、その前日に発表した「政権政策(たたき台)」とが真っ向から矛盾しているということに気がつかなかったのでしょうか。

2006.12.04:aone

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